厚生労働省『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』が高齢者に示している目安は、3メッツ以上の身体活動を1日40分以上。歩数にすると1日約6,000歩以上、週にすると15メッツ・時以上です。1万歩ではありません。
最終回は、この「歩く」を扱います。ここまでの4回で、座位(第1回)、支えありの立位(第2回)、支えなしの室内(第3回)、屋外の不整地(第4回)と段を上げてきました。歩行はその全部を使う動作です。順番を逆にして歩くことから始めると、体を支える力が追いつかないまま距離だけ延びることになります。
散歩をめぐる思い込みを、3つほぐしていきます。
思い込み1「1万歩に届かないと意味がない」
先ほどの身体活動・運動ガイド2023では、成人の目安が1日60分以上(約8,000歩以上、週23メッツ・時以上)、高齢者の目安が1日40分以上(約6,000歩以上、週15メッツ・時以上)です。従来の『健康づくりのための身体活動基準2013』では、高齢者に対して強度を問わず週10メッツ・時以上を推奨していたところを、2023年版では強度3メッツ以上という条件をつけたうえで週15メッツ・時以上へ改めています。
同ガイドは全体の方向性として、「個人差を踏まえ、強度や量を調整し、可能なものから取り組む」「今よりも少しでも多く身体を動かす」の2つを掲げています。数値目標に届かない日を失敗と数える必要はありません。
もうひとつ、同ガイドは「座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意する」ことも高齢者の項目に入れています。立位が難しい方についても、じっとしている時間が長くなりすぎないよう少しでも身体を動かす、と書かれています。
思い込み2「歩いていれば転ばない」
ここは正確に書きます。
Sherrington らのコクラン・レビュー(Cochrane Database of Systematic Reviews 2019年第1号 CD012424、108試験・23,407人)は、運動全体では転倒の発生率が23%下がる(発生率比0.77、95%信頼区間 0.71〜0.83、確実性は高い)としながら、種類別の解析では、歩行プログラムを主体としたものについて「転倒への効果は不確実」と結論しています。抵抗運動だけのプログラム、ダンスについても同じ判断です。
効果がはっきり示されたのはバランス訓練と機能訓練(発生率比0.76、確実性は高い)、次いでそれに筋力トレーニングを足した多要素のプログラム(発生率比0.66、確実性は中程度)でした。
つまり散歩は、体力と心肺機能を保つ手段としては優れているものの、それ単独では転倒予防の柱になりません。第1回から第4回までのバランス運動と筋力運動を、散歩と並行して続ける必要があります。
思い込み3「同じ速さで長く歩くほどよい」
速さに緩急をつける歩き方が、日本で検証されています。信州大学のグループによる研究(Nemoto K, Gen-no H, Masuki S, Okazaki K, Nose H. Mayo Clinic Proceedings 2007年82巻7号 803〜811頁)です。
男性60人・女性186人、平均年齢63歳を、運動なし・中強度の連続歩行・高強度のインターバル速歩の3群にランダムに割り付け、5か月間追跡しました。インターバル速歩の群の手順は、最高酸素摂取量の40%程度の低強度歩行3分と、70%を超える高強度歩行3分を、1日5セット以上、週4日以上。
結果は、インターバル速歩の群で膝伸展の等尺性筋力が13%、膝屈曲の等尺性筋力が17%、自転車での最高酸素摂取量が8%、歩行での最高酸素摂取量が9%の増加(いずれもP<.001)。これらはすべて、中強度の連続歩行群の増加を有意に上回りました。
同じ時間を歩くなら、緩急をつけるほうが体力と脚の筋力に効く。そういう試験です。
フォームは6か所を確かめる
- 目線。15メートルほど先へ。足元を見ると背中が丸まり、歩幅が縮みます。
- 姿勢。頭のてっぺんを糸で引かれるつもりで背を伸ばし、肩の力は抜く。
- 腕。肘を90度に曲げ、後ろへ引く意識で振る。前へ振ろうとすると肩が上がります。
- 歩幅。いつもより半足ぶん大きく。それ以上は無理をしない。
- 着地。かかとから接地し、足裏全体、つま先で押し出す。
- 呼吸。2回吸って2回吐く。速歩の3分間で息が乱れるなら、速さを落としてください。
出発前と帰宅後
- 出る前に、壁に手をついてアキレス腱伸ばしを左右各30秒、足首回しを左右各10回、肩回し10回。3分で足ります。
- コップ1杯の水を飲んでから出発。
- 靴は、かかとの内側が斜めにすり減ってきたら買い替えの時期です。
- 帰り着いたらすぐに座らず、ゆっくり歩いて5分。心拍を落としてから休みます。
- ふくらはぎと太ももを軽く伸ばし、水分を補給。
5回を通して
椅子に座って、つかまって立って、支えを手放して、外へ出て、歩く。この5段は、上へ進むためだけの階段ではありません。
体調の悪い日、真夏、真冬、雨。そういう日は一段下りて、第3回の室内20分や第1回の椅子15分に戻ればよい。下りる段があるから、途切れずに続けられます。
最後に、5回すべてに共通することを繰り返します。心疾患・呼吸器疾患・整形外科の疾患のある方、痛みのある方、めまいや立ちくらみのある方は、開始前にかかりつけ医へご相談ください。速歩の強度についても、どこまで上げてよいかの線引きは、あなたの検査値と病歴を知っている医師だけが引けます。
参考文献
- 厚生労働省『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(概要)』2024年.
- Sherrington C, Fairhall NJ, Wallbank GK, Tiedemann A, Michaleff ZA, Howard K, Clemson L, Hopewell S, Lamb SE. Exercise for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database of Systematic Reviews 2019, Issue 1. Art. No.: CD012424.
- Nemoto K, Gen-no H, Masuki S, Okazaki K, Nose H. Effects of high-intensity interval walking training on physical fitness and blood pressure in middle-aged and older people. Mayo Clinic Proceedings 2007;82(7):803-811.
参考文献
- 巽 一郎. (2020). 『100年足腰』. サンマーク出版. Amazonで見る ›
- 福井 透. (2022). 『歩くだけで不調が消える!』. 主婦の友社. Amazonで見る ›
- 福池 和仁. (2021). 『ゆるHIIT』. PHP研究所. Amazonで見る ›
- 白澤 卓二. (2019). 『100年生きてもボケない101の方法』. 祥伝社. Amazonで見る ›
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