次は立つ つかまって鍛える下半身

手すりをつかんだまま、かかとをゆっくり上げて、ゆっくり下ろす。地味きわまりない動作です。ところが転倒予防の臨床試験で、くり返し採用されてきた動作のひとつが、これ。

第1回の椅子体操では、体重の大部分を座面に預けていました。今回はその体重を自分の脚で支えます。ただし手はテーブルか手すりに置いたまま。全5回のうち、座って行う運動(第1回)と、支えなしで室内を動く運動(第3回)をつなぐ位置です。

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支えがあると負荷を上げられる

立った姿勢では、背中・おなか・太ももの前面・ふくらはぎといった、重力に逆らって姿勢を保つ筋肉が働き続けます。座位より負荷は当然大きい。そのぶん転ぶ危険も上がります。

手すりやテーブルは、その危険だけを取り除く道具です。支えがあるから、片脚立ちのような不安定な姿勢にも踏み込める。つかまり立ちの運動が「安全に負荷を上げる」やり方である理由は、ここにあります。

根拠になっている研究

Sherrington らのコクラン・レビュー(Cochrane Database of Systematic Reviews 2019年第1号 CD012424、108試験・23,407人)は、運動の種類ごとに転倒への効果を分けて示しています。バランス訓練と機能訓練を主体としたプログラムは、対照群と比べて転倒の発生率を24%下げました(発生率比0.76、95%信頼区間 0.70〜0.81、39試験・7,920人、確実性は高い)。転倒を1回以上経験した人の数も13%減っています(リスク比0.87、同 0.82〜0.91、確実性は高い)。

いっぽう同じレビューは、筋力トレーニングだけのプログラム、ダンス、歩行プログラムについては、転倒への効果は不確実だと判断しています。効いているのは「バランスを崩しかけたところから立て直す練習」の部分。つかまり立ちの運動が要になるのは、そこを直接鍛えるからです。

筋肉をつけるだけでは足りません。

より具体的な型としては、ニュージーランドで開発された「オタゴ運動プログラム」があります。Thomas、Mackintosh、Halbert による系統的レビューとメタ解析(Age and Ageing 2010年39巻6号 681〜687頁)は、7件の試験・1,503人(平均年齢81.6歳)をまとめ、このプログラムが転倒の発生率を下げたと報告しました(発生率比0.68、95%信頼区間 0.56〜0.79)。12か月間の死亡リスクについてもリスク比0.45(同 0.25〜0.80)でした。

オタゴの中身は、椅子や手すりを支えにした膝伸ばし・股関節の外転・かかと上げ・つま先上げなどの筋力運動、片脚立ちや後ろ向き歩きなどのバランス運動、そして歩行の組み合わせです。下のメニューは、この構成を家庭向けに整理しました。

始める前に

  • 心疾患・呼吸器疾患・整形外科の疾患をお持ちの方、痛みやめまいのある方、骨粗鬆症の治療中の方は、開始前にかかりつけ医へご相談ください。とくに片脚立ちを行ってよいかどうかは、必ず確認を。
  • 支えにするテーブルは、押しても動かないもの。キャスター付きは使いません。手すりがあればそちらを優先します。
  • 裸足か、滑り止めのついた靴下、あるいは室内用の運動靴。普通の靴下は滑ります。
  • ふらつきの強い日は片脚立ちを飛ばし、両足で立つ運動だけにしてください。
  • できれば、家族が家にいる時間帯に。

週3日、25分の中身

厚生労働省『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』は、高齢者について、多要素な運動を週3日以上、そのうち筋力トレーニングを週2〜3日と示しています。以下はその週3日分にあたります。

立ち上がりと準備(5分)

  1. テーブルに両手を置き、足を腰幅に開いて立つ。息を吸って背を伸ばし、吐きながら肩を下ろす。10回。
  2. 片足を大きく後ろへ引き、後ろ足のかかとを床につけたままアキレス腱を伸ばす。左右各30秒。
  3. 足を肩幅より広く開き、重心を左右へゆっくり移す。10往復。移した側の股関節の内側が伸びます。

脚を鍛える(12分)

  1. つかまりスクワット。膝がつま先より前へ出ない範囲で、椅子に腰かけるように腰を後ろへ引く。息を吐きながら3秒で下げ、吸いながら3秒で戻す。10回を2セット。
  2. かかと上げ。両足のかかとを2秒かけて上げ、2秒かけて下ろす。20回。慣れたら片足ずつ10回に。
  3. 横への脚上げ。つま先を正面に向けたまま、片脚を真横へ上げる。上げる高さは20〜30cmで十分。左右各10回。
  4. 後ろへの脚上げ。膝を伸ばしたまま、上体を前に倒さずに後ろへ。左右各10回。お尻の筋肉が硬くなるのを確かめます。
  5. 膝の曲げ伸ばし。かかとをお尻に近づけるように片膝を曲げ、ゆっくり戻す。左右各10回。
  6. 片脚立ち。手すりに指2本だけ添え、30秒。左右各2回。ぐらついたらすぐ手のひら全体でつかんでください。

心拍を上げる(8分)

  1. その場足踏み。腕を大きく振り、ももを高く。60秒を3セット、間に30秒の休み。
  2. 横歩き。テーブルの縁に沿って左へ5歩、右へ5歩。10往復。足を交差させずに、そろえて動きます。
  3. つま先立ち歩き。テーブルに沿って10歩、かかと歩きで10歩。各2往復。

むしろ問題は、続かないこと

先ほどのオタゴのメタ解析には、もうひとつ数字が載っています。12か月の時点で研究に残っていた747人のうち、週3回以上の運動を続けていたのは274人、36.7%でした。3人に1人強。

だから私は、まとめてやることにこだわらないほうがよいと考えています。台所でお湯が沸くのを待つ間にかかと上げ20回。洗面所で歯を磨きながら片脚立ち30秒。テレビの合間に横歩き10往復。1日の中に散らばらせても、合計は同じです。

次回は、その手を離します。

参考文献

  • Sherrington C, Fairhall NJ, Wallbank GK, Tiedemann A, Michaleff ZA, Howard K, Clemson L, Hopewell S, Lamb SE. Exercise for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database of Systematic Reviews 2019, Issue 1. Art. No.: CD012424.
  • Thomas S, Mackintosh S, Halbert J. Does the ‘Otago exercise programme’ reduce mortality and falls in older adults?: a systematic review and meta-analysis. Age and Ageing 2010;39(6):681-687.
  • 厚生労働省『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(概要)』2024年.
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参考文献

  1. 巽 一郎. (2020). 『100年足腰』. サンマーク出版. Amazonで見る ›
  2. 福井 透. (2022). 『歩くだけで不調が消える!』. 主婦の友社. Amazonで見る ›
  3. 福池 和仁. (2021). 『ゆるHIIT』. PHP研究所. Amazonで見る ›
  4. 白澤 卓二. (2019). 『100年生きてもボケない101の方法』. 祥伝社. Amazonで見る ›

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この記事を書いた人

hasejiiのアバター hasejii 110歳健康寿命プロジェクト 運営者|介護福祉士|デイサービス管理者(経験10年)

介護福祉士として、デイサービスの管理者を10年間経験。現場で見てきた「健康に老いるための工夫」と最新の医学・栄養学の知見をかけ合わせ、世界第1位の平均寿命を誇る日本の食事・運動・睡眠・心の習慣を、優しい言葉で紐解いていきます。

「110歳まで自分の足で歩く」を合言葉に、科学的根拠のある情報だけをお届けします。

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