まずは椅子から 座ってできる15分体操

椅子に浅く腰かけて、足の裏を床にぴたりとつける。背もたれには寄りかからない。この姿勢がとれるなら、今日から運動が始められます。

この記事は「健康寿命を維持するための体操」全5回の1回目です。5回は、①椅子に座って行う→②テーブルや手すりにつかまって立って行う→③支えなしで室内を動く→④公園に出る→⑤歩く、という順に進みます。体を支えてくれる面積を少しずつ減らし、そのぶん行動範囲を広げていく流れ。今回はその出発点にあたります。

目次

座ってする運動で何が変わるのか

椅子に座って行う運動については、すでに研究がまとめられています。Klempel らが2021年に発表した系統的レビューとメタ解析(International Journal of Environmental Research and Public Health 18巻4号 論文番号1902)は、50歳以上を対象とした25件の研究を集め、うち19件・のべ1,388人分をメタ解析にかけました。

対照群と比べた結果は、30秒椅子立ち上がりテストの回数が平均2.25回の増加(95%信頼区間 0.64〜3.86)、握力が平均2.10の増加(同 0.76〜3.43)、30秒アームカールが平均2.82回の増加(同 1.34〜4.31)。ランダム化比較試験を集めたメタ解析の数字です。

30秒椅子立ち上がりテストは、腕を組んだまま椅子から立ち座りを30秒くり返し、回数を数えるもの。この回数が増えるということは、便座から立つ、車から降りる、床のものを拾って起き上がるといった日常動作に余裕が生まれるということです。

先に正直に書いておきます

椅子体操だけで転倒が防げるわけではありません。

転倒予防の運動には、Sherrington らによるコクラン・レビュー(Cochrane Database of Systematic Reviews 2019年第1号 CD012424)という大きな検証があります。25か国・108件のランダム化比較試験・23,407人をまとめたもので、運動全体では転倒の発生率が23%下がる(発生率比0.77、95%信頼区間 0.71〜0.83、確実性は高い)と結論しています。

ただしこのレビューは、内訳も明示しています。効果がはっきりしているのはバランス訓練と機能訓練であり、柔軟性運動だけ、あるいは持久性運動だけのプログラムを対照群と比べた試験は1件も見つからなかった、と。

椅子体操は転倒予防の完成形ではなく、そこへ向かう体力をつけるための入口。第2回以降の立位の運動につなげてこそ意味が出ます。

始める前に確かめること

  • 心臓や肺の病気、関節の痛み、めまい、骨粗鬆症の治療中など、持病のある方は、始める前にかかりつけ医に「この内容をやってよいか」を確認してください。運動の可否も強度の上限も、あなたを診ている医師の判断によります。
  • 椅子はキャスターのないもの、座面が回らないもの。壁を背にして置くとさらに安全です。
  • 痛みが出たらその場でやめる。翌日に強い張りが残るなら、次回は回数を半分に。
  • 息をこらえない。力を入れる側で息を吐きます。

15分の組み立て

厚生労働省『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』は、高齢者に対して、有酸素運動・筋力トレーニング・バランス運動・柔軟運動などの多要素な運動を週3日以上、そのうち筋力トレーニングを週2〜3日、と示しています。同ガイドは全体の方向性として「個人差を踏まえ、強度や量を調整し、可能なものから取り組む」ことも併記しています。下の15分は、その多要素をひと通り含む形にしました。

ほぐす(5分)

  1. 首を右へゆっくり5回、左へ5回。1回に4秒かけ、目線は回す方向へ送ります。
  2. 両肩を耳に近づけて3秒止め、息を吐きながらストンと落とす。10回。
  3. 右手を頭上に伸ばし、息を吐きながら上体を左へ倒して15秒。左右各3回。座骨が座面から浮かない範囲まで。
  4. 足首を右回し10回、左回し10回。これを左右の足それぞれに。

鍛える(5分)

  1. もも上げ。片膝を胸へ近づけるように持ち上げ、1秒止めて下ろす。左右各10回。
  2. 膝伸ばし。片膝をまっすぐ伸ばし、つま先を自分の方へ向けて3秒止める。左右各10回。太ももの前が硬くなるのを手で触って確かめてください。
  3. かかと上げとつま先上げを交互に20回。ふくらはぎとすねの両方に効きます。
  4. 立ち座り。両手を座面に添え、息を吐きながら立ち、息を吸いながら3秒かけて座る。10回。ゆっくり下ろすところが要点です。
  5. おなかで呼吸をしながら上体を左右へひねる。左右各5回。

心拍を上げる(5分)

  1. 座ったまま行進。腕を大きく振り、ももを高く。30秒を3セット、間に30秒の休みを入れます。
  2. 座ったままパンチ。左右交互に前へ。30秒を3セット。
  3. 両足で空中の自転車こぎ。30秒を3セット。腰に痛みのある方は省いてください。

「少し息が弾むが会話はできる」あたりが目安です。ただしこの目安が自分に当てはまるかどうかは持病の有無で変わります。判断は医師に委ねてください。

続けるための一工夫

時刻を決めるより、すでにある動作に紐づけるほうが続きます。朝、椅子に座ってテレビをつけた直後。夕方、風呂が沸くのを待つ間。「この行動のあと」と決めてしまえば、思い出す努力がいらなくなります。

週3日から始めてください。

次回は、テーブルや手すりにつかまって立って行う運動へ進みます。転倒予防の本丸はそこからです。

参考文献

  • Klempel N, Blackburn NE, McMullan IL, Wilson JJ, Smith L, Cunningham C, O’Sullivan R, Caserotti P, Tully MA. The Effect of Chair-Based Exercise on Physical Function in Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis. International Journal of Environmental Research and Public Health 2021;18(4):1902.
  • Sherrington C, Fairhall NJ, Wallbank GK, Tiedemann A, Michaleff ZA, Howard K, Clemson L, Hopewell S, Lamb SE. Exercise for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database of Systematic Reviews 2019, Issue 1. Art. No.: CD012424.
  • 厚生労働省『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(概要)』2024年.
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参考文献

  1. 巽 一郎. (2020). 『100年足腰』. サンマーク出版. Amazonで見る ›
  2. 福井 透. (2022). 『歩くだけで不調が消える!』. 主婦の友社. Amazonで見る ›
  3. 福池 和仁. (2021). 『ゆるHIIT』. PHP研究所. Amazonで見る ›
  4. 白澤 卓二. (2019). 『100年生きてもボケない101の方法』. 祥伝社. Amazonで見る ›

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この記事を書いた人

hasejiiのアバター hasejii 110歳健康寿命プロジェクト 運営者|介護福祉士|デイサービス管理者(経験10年)

介護福祉士として、デイサービスの管理者を10年間経験。現場で見てきた「健康に老いるための工夫」と最新の医学・栄養学の知見をかけ合わせ、世界第1位の平均寿命を誇る日本の食事・運動・睡眠・心の習慣を、優しい言葉で紐解いていきます。

「110歳まで自分の足で歩く」を合言葉に、科学的根拠のある情報だけをお届けします。

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