令和5年の1年間に不慮の事故で亡くなった人は44,440人。そのうち65歳以上が39,016人で、全体の87.8%を占めます。同じ年、高齢者の交通事故死は2,116人でした(消費者庁「コラムVol.12 高齢者の事故」2024年12月19日公表、厚生労働省「人口動態統計」に基づく集計)。
一方、不慮の溺死及び溺水で亡くなった高齢者は8,270人、不慮の窒息は7,779人。どちらも交通事故の3倍を超えています。
車より、風呂と食事のほうが危ない。
多い順に並べ直すと、見え方が変わります
消費者庁が人口動態調査をもとに作成した資料(令和4年12月公表)によれば、65歳以上の不慮の事故死は「転倒・転落・墜落」「窒息」「溺死・溺水」の順に多く、いずれも交通事故を上回っています。令和3年の数字で、転倒・転落・墜落9,509人、窒息7,246人、溺死・溺水6,458人、交通事故2,150人。
内訳はさらに具体的です。転倒・転落・墜落のうち85%は「同一平面上での転倒」、つまり階段や脚立からの落下ではなく、平らな床の上でつまずいたり滑ったりしたもの。窒息の54%は食物の誤嚥。溺死・溺水の79%は浴槽です。危険な場所は特別なところにはありません。台所、廊下、風呂場、食卓。毎日使う場所ばかりです。
転倒は、運動で2割減らせる
転倒予防については、質の高い研究が積み上がっています。Sherrington らが世界保健機関の身体活動ガイドライン作成のために行った系統的レビュー・メタ解析(Int J Behav Nutr Phys Act. 2020;17:144)では、運動を行った群は行わなかった群にくらべ転倒の発生率が23%低いという結果でした(率比0.77、95%信頼区間0.71〜0.83、64試験・14,306人、エビデンスの確実性は高い)。
中身も分かっています。バランスや日常動作の訓練を含む運動では率比0.76(同0.70〜0.82)。週3時間以上の運動にバランス・機能訓練を組み合わせた場合は率比0.58(同0.45〜0.76)まで下がりました。歩くだけでは足りず、ぐらつきに耐える練習が要る、ということです。
持病のある方が運動量を増やすときは、かかりつけ医にご相談ください。
住まいの側の対策、たとえば段差の解消、手すり、滑り止め、夜間の足元灯、かかとのある履物。これらは効果の大きさが数値で示されているわけではなく、事故の起こり方から導かれた実務的な工夫です。ただ、床の上での転倒が85%を占める以上、床とその周辺を整えることには理があります。
湯温41度以下、10分まで
令和5年に不慮の溺死及び溺水で亡くなった高齢者8,270人のうち、浴槽での事故が6,541人。うち6,073人は家や居住施設の浴槽でした。月別では12月と1月に集中します(前掲・消費者庁コラム)。
消費者庁が示す目安は、湯温41度以下、湯につかる時間は10分まで。42度で10分入浴すると体温が38度近くまで上がり、高体温による意識障害で浴槽から出られなくなるおそれがあるためです。あわせて、脱衣所と浴室を前もって暖める、入浴前に水分をとる、食後すぐ・飲酒後・服薬後の入浴は避ける、入浴前に同居者へ一声かける、浴槽から急に立ち上がらない、浴槽内で意識がもうろうとしたら気を失う前に湯を抜く。
浴槽でぐったりしている人を見つけたときの手順も、消費者庁が示しています。
- 浴槽の栓を抜く。大声で助けを呼び、人を集める
- 出せるようなら浴槽から救出する(無理なら蓋に上半身を乗せて沈まないようにする)。直ちに救急車を要請
- 肩をたたきながら声をかけ、反応を確認する
- 反応がなければ呼吸を確認する
- 呼吸がなければ胸骨圧迫を開始する。人工呼吸ができるなら胸骨圧迫30回と人工呼吸2回を繰り返し、できなければ胸骨圧迫のみ続ける
なお、東京都健康長寿医療センター研究所の研究では、2011年の1年間にいわゆるヒートショックに関連して約17,000人が急死し、うち約14,000人が高齢者と考えられると推計されています(消費者庁の前掲資料が引用)。これは推計値であり、死亡診断書上は病死に分類されるものも含むため、人口動態統計の実数とは性質が違います。
詰まらせたときの手順を、家族で共有しておく
令和5年の窒息死7,779人のうち、気道閉塞を生じた食物の誤嚥は4,215人。5割を超えます。餅による窒息死は1月に半数近くが集中し、なかでも正月三が日が目立つこと、男性が女性の2.6倍多いことも、消費者庁が平成30年から令和元年の人口動態調査票情報を分析して報告しています。
のどをつかむ動作(チョークサイン)、声が出せない、顔色が悪い。この様子が見えたら窒息を疑います。まず、できるだけ強く咳をするよう促す。それができないときは背部叩打法で、手のひらの付け根を使い、左右の肩甲骨の中間あたりを何度も力強く叩きます。それでも出てこなければ腹部突き上げ法(ハイムリック法)。ただし乳児・妊婦・高度肥満の方には行いません。実施した場合は内臓を傷めている可能性があるため、救急隊にその旨を伝えるか、速やかに医師の診察を受けてください。
途中で分からなくなったら119番。通信指令員が、行うべきことを電話で指導してくれます。
熱中症は、屋外より家の中
消防庁のまとめでは、令和6年5月から9月の熱中症による救急搬送人員は全国で97,578人。平成20年の調査開始以降で最も多い数でした。年齢区分別では高齢者が55,966人で57.4%。発生場所別では住居が37,116人で38.0%と最も多く、道路の19.0%、公衆(屋外)の13.0%を大きく上回っています。
外出を控えていれば安全、ではありません。
備えの優先順位
統計が示す順番は、はっきりしています。床、浴槽、食卓、そして夏の居間。応急手当は消防庁が「応急手当WEB講習」をオンラインで公開しており、消防署の救命講習も各地で受けられます。家族が二人以上いるなら、二人とも覚えておいたほうがいい。倒れた本人は、自分では何もできないからです。
参考文献
- 消費者庁「コラムVol.12 高齢者の事故 ―冬の入浴中の溺水や食物での窒息に注意―」2024年12月19日
- 消費者庁「高齢者の事故に関するデータとアドバイス等」令和4年12月27日(厚生労働省「人口動態調査」に基づく)
- Sherrington C, Fairhall N, Kwok W, et al. Evidence on physical activity and falls prevention for people aged 65+ years: systematic review to inform the WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour. Int J Behav Nutr Phys Act. 2020;17:144.
- 総務省消防庁「令和6年(5月〜9月)の熱中症による救急搬送状況」令和6年10月29日
参考文献
- 太田 差惠子. (2022). 『親の介護でやってはいけない』. 翔泳社. Amazonで見る ›
- 太田 差惠子. (2021). 『マンガでやさしくわかる 介護とお金』. 日本能率協会マネジメントセンター. Amazonで見る ›
- 和田 秀樹. (2023). 『老後ひとり暮らしを楽しむ65のヒント』. 幻冬舎. Amazonで見る ›
- 杉山 孝博. (2020). 『認知症の人を支える 心のケア』. 中央法規出版. Amazonで見る ›
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