東京消防庁の管内で、平成30年の1年間に「ころぶ」事故で救急搬送された65歳以上は58,368人。そのうち住宅などの居住場所で起きたものが32,793人、さらにその屋内で起きたものが30,187人。居住場所での転倒の9割以上は、屋内です。
場所の内訳の1位は居室・寝室で22,282人。次いで玄関・勝手口3,212人、廊下・縁側2,252人、トイレ・洗面所1,029人、台所834人(東京消防庁「救急搬送データからみる高齢者の事故」)。
転ぶ場所は、外ではありません。
だから室内運動は片づけから始まります
寝室と玄関と廊下。転倒の多い順にならべた3か所が、そのまま毎日の生活動線です。運動のためにスペースを空けることは、そのまま転倒予防の工事になります。
- 畳2畳ぶんの床を空ける。そこにコード・新聞・買い物袋を置かない習慣を作ります。
- フローリングには滑らないマットを敷く。靴下のまま動かない。
- 玄関の上がり框と廊下に、握れる手すりがあるかを見直す。介護保険の住宅改修が使える場合があります。
- 夜間、寝室からトイレまでの経路に足元灯を置く。
ここで支えを手放します
第1回は椅子に座って、第2回はテーブルや手すりにつかまって。今回はその手を離します。とはいえ、手すりを完全になくすわけではありません。壁ぎわに立ち、いつでも触れられる距離を保ったまま、手は添えずに動く。それが第3回の位置づけです。
組み合わせると効きます
Sherrington らのコクラン・レビュー(Cochrane Database of Systematic Reviews 2019年第1号 CD012424)は、種類を組み合わせた運動プログラムについて、転倒の発生率をおそらく34%下げると報告しています(発生率比0.66、95%信頼区間 0.50〜0.88、11試験・1,374人、確実性は中程度)。組み合わせの中身として最も多かったのは、バランス訓練・機能訓練に筋力トレーニングを足したものでした。
確実性が「中程度」であることは、そのまま書いておきます。試験数も参加者数も、バランス訓練単独の解析(39試験・7,920人、確実性は高い)に比べると少ないためです。
世界保健機関(WHO)の『身体活動および座位行動に関するガイドライン』(2020年)も、65歳以上に対し、機能的なバランスと筋力トレーニングを重視した多要素の身体活動を、中強度以上で週3日以上行うことを推奨しています。強い推奨、根拠の確実性は中程度、という位置づけです。厚生労働省『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』の高齢者向け推奨も、多要素な運動を週3日以上、筋力トレーニングを週2〜3日、と同じ方向を向いています。
畳2畳でできる20分
ほぐす(5分)
- 両手を後ろで組み、肩甲骨を寄せながら腕を後方へ引き上げる。5秒止めて戻す。10回。胸の前が伸びます。
- 四つ這いになり、息を吐きながら背中を丸め、吸いながら反らす。10往復。膝が痛む方は膝の下にタオルを。
- 床に座って両脚を前へ伸ばし、息を吐きながら手を膝、すね、足先の順に近づける。30秒を3回。反動はつけません。
鍛える(8分)
- 壁腕立て伏せ。壁から一歩離れて手をつき、肘を曲げて胸を壁へ近づける。3秒で下げ、3秒で戻す。10回を2セット。
- 椅子スクワット。椅子の前に立ち、座面に触れる直前で止めて立ち上がる。15回。手は前へ伸ばしてバランスを取ります。
- ヒップリフト。あお向けで膝を立て、息を吐きながらお尻を持ち上げ3秒静止。10回。
- ドローイン。あお向けのまま、へそを背中へ引き込むようにおなかをへこませて10秒。5回。呼吸は止めません。
- タンデム立位。片足のかかとを反対の足のつま先の前に置き、一直線に立って20秒。左右各2回。壁から30cm以内で行い、ふらついたら壁に触れます。
心拍を上げる(7分)
- 廊下や部屋の端から端まで、腕を振って速歩き。3分。
- その場でサイドステップ。左右へ小さく。30秒を3セット。
- 好きな音楽をかけて自由に体を動かす。2分。これも立派な有酸素運動です。
踏み台は、慎重に
室内運動として踏み台昇降を勧める記事は多く、実際に有効な有酸素運動です。ただし同じ東京消防庁の統計で、「落ちる」事故の原因の内訳を見ると、階段が3,349人で最多、次いでベッド1,075人、椅子460人、脚立・踏み台・足場400人となっています。
踏み台を使うなら、高さ10cm前後から。手すりか壁に手が届く位置に置く。ふらつきや膝の痛みがある方は、この項目を飛ばして室内速歩きに替えてください。
医師への確認を挟んでください
床に座る運動、あお向けの運動、片脚に近い姿勢の運動が入ります。心疾患・呼吸器疾患・整形外科の疾患のある方、腰や膝に痛みのある方、めまいや立ちくらみのある方は、開始前にかかりつけ医へご相談ください。運動強度の目安を「少し息が弾む程度」と置いていますが、それが適切かどうかの判断は、個々の状態を診ている医師によります。
次回は外へ出ます。
参考文献
- 東京消防庁「救急搬送データからみる高齢者の事故」(平成30年中の数値).
- Sherrington C, Fairhall NJ, Wallbank GK, Tiedemann A, Michaleff ZA, Howard K, Clemson L, Hopewell S, Lamb SE. Exercise for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database of Systematic Reviews 2019, Issue 1. Art. No.: CD012424.
- World Health Organization. WHO Guidelines on Physical Activity and Sedentary Behaviour. Geneva: WHO, 2020.
- 厚生労働省『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(概要)』2024年.
参考文献
- 巽 一郎. (2020). 『100年足腰』. サンマーク出版. Amazonで見る ›
- 福井 透. (2022). 『歩くだけで不調が消える!』. 主婦の友社. Amazonで見る ›
- 福池 和仁. (2021). 『ゆるHIIT』. PHP研究所. Amazonで見る ›
- 白澤 卓二. (2019). 『100年生きてもボケない101の方法』. 祥伝社. Amazonで見る ›
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