私は、年を重ねるほど薬が増えるのを、当たり前だと思っていませんか。私の周りでも、5種類6種類の薬を飲む方は珍しくありません。けれど薬は、多ければ安心というものではないのです。数が増えると、思わぬ落とし穴が口を開けます。今日はその境目の話をします。
薬は数に比例して副作用が増える
厚生労働省の指針には、はっきり書かれています。薬物有害事象は、薬剤数にほぼ比例して増えると(厚労省『高齢者の医薬品適正使用の指針 総論編』2018年5月)。
分かれ目のひとつは6種類です。東京大学の小島太郎先生らの研究では、6剤以上で薬物有害事象の発生が明らかに増えました(Kojima T et al. Geriatr Gerontol Int. 2012。前掲の厚労省指針が原典として引用)。
転倒の境目は、もう少し手前にあります。同じ研究グループは、5剤以上でふらつきや転倒が増えると報告しています(同指針および Kojima T et al. Geriatr Gerontol Int. 2012)。私は、この5剤と6剤という数字を、ひとつの目安として覚えておくとよいと思います。
| 薬剤数 | 注意したいこと |
|---|---|
| 5種類以上 | ふらつき・転倒のリスクが上がりやすい |
| 6種類以上 | 薬物有害事象の発生が明らかに増えやすい |
| 7種類以上 | 75歳以上の約4人に1人が該当する水準 |
なぜ薬は増えてしまうのか
理由のひとつは、処方カスケードと呼ばれる連鎖です。ある薬の副作用を新しい病気と捉え、それに別の薬が足される。前掲の厚労省指針も、この連鎖に注意を促しています。
もうひとつは、複数の医療機関のかかり方です。内科、整形外科、皮膚科と、それぞれが薬を出す。全体を見渡す人がいないと、薬は静かに積み上がります。
数字も現実を映しています。厚労省『社会医療診療行為別統計』(2016年)によれば、75歳以上では40.1%が5種類以上、24.8%が7種類以上の薬を処方されていました。決して他人事ではない割合だと、私は感じます。
見直しは自己判断でなく医師と一緒に
近年は減薬(デプレスクライビング)が注目されています。ただし万能ではありません。BMJの2024年の総説では、減薬介入の半数強が、通常の診療より良い結果を一つ以上の指標で示したと報告されています(Reeve E et al. BMJ. 2024;385:e074892)。裏を返せば、効果は介入の中身や状況で変わるということです。
だからこそ、自分の判断で薬をやめるのは危険です。急にやめて悪化する薬もあります。減らせるかどうかは、必ずかかりつけ医にご相談ください。相談のとき、次の準備が役に立ちます。
- お薬手帳を一冊にまとめ、全部の薬を一度に見せる
- 市販薬とサプリメントも忘れず伝える
- ふらつき、転倒、物忘れの有無を具体的に話す
- 「減らせる薬はありますか」と一言たずねてみる
私の考えでは、薬を減らすこと自体が目的ではありません。目的は、その人がより良く暮らすことです。薬は人生を支える道具であって、主役ではないと思うのです。
あなたのお薬手帳には今、いくつの薬が並んでいますか。次の受診のとき、その数を医師と一緒に眺めてみませんか。
次回は木曜日、シニアの新しい役割をテーマにお届けします。
参考文献
- 厚生労働省『高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)』(2018年5月公表)
- 厚生労働省『高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編 療養環境別)』(2019年6月公表)
- 厚生労働省『社会医療診療行為別統計』(2016年)
- Kojima T, et al. Polypharmacy as a risk for adverse drug reactions and falls in elderly patients. Geriatrics & Gerontology International. 2012;12.
- Reeve E, et al. Deprescribing in older adults with polypharmacy. BMJ. 2024;385:e074892.
本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、個別の診断や治療方針を示すものではありません。薬の中止や変更、運動強度の調整については、必ずかかりつけ医にご相談ください。
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