私は72歳になりました。介護の現場には10年おりました。デイサービスの管理者をしていた頃、利用者の昔話を何度も聞きました。戦後の暮らし、初めての仕事、子育ての苦労。話し終えた方の表情は、決まって明るくなっていました。この「思い出を語る力」には、実は科学の裏づけがあります。今日は木曜日。シニアの新しい役割として、「自分史づくり」をお勧めしたいと思います。
思い出を語ることは心の薬になる
高齢者が人生を順に振り返る活動は「回想法」「ライフレビュー」と呼ばれます。PinquartとForstmeierは2012年、128の対照試験をまとめて解析しました(Aging & Mental Health. 2012;16(5):541-558)。その結果、うつ症状は効果量g=0.57という中程度の改善を示しました。自分の人生を受け入れる感覚(自我の統合)も、g=0.64改善しました。
効果量0.5前後というのは、心理的な支援としては十分に意味のある大きさです。薬だけに頼らない心のケアの選択肢になります。私の経験でも、昔の仕事や子育てを語る方は、声に張りが出て、姿勢まで変わりました。これは私が現場で繰り返し見てきた光景です。
「生きがい」は寿命にも関わる
書き残すという目標は、日々の生きがいになります。そして生きがいは、寿命との関連が報告されています。
宮城県の大崎研究では、43,391人を約7年間追跡しました。「生きがいがない」と答えた人は、ある人に比べて全死亡リスクが約1.5倍高いという結果でした(Sone T et al. Psychosomatic Medicine. 2008;70(6):709-715)。米国でも、Boyleらが高齢者1,238人を追跡しました。人生の目的意識が高い人は、低い人より死亡リスクが約4割低いと報告されています(Boyle PA et al. Psychosomatic Medicine. 2009;71(5):574-579)。
いずれも観察研究ですから、因果関係の証明ではありません。生きがいがある人はもともと健康、という面もあるでしょう。それでも、「書き残す」という目的を持つことが生きがいの一つになるなら、挑戦する価値は大きい。私はそう考えています。
今日から始める自分史。5つのステップ
難しく考える必要はありません。私が現場経験から組み立てた手順は、次の5つです。
| ステップ | やること | 目安 |
|---|---|---|
| 1 | 年表を作る(誕生から10年刻みで出来事を書く) | 最初の30分 |
| 2 | 思い出を1つ選び、400字で書く | 週1回 |
| 3 | 写真を1枚選び、説明文を添える | 週1回 |
| 4 | 家族や友人に読んでもらい、感想をもらう | 月1回 |
| 5 | 50話たまったら印刷・製本する | 1年後 |
書くのが苦手な方は、スマホの音声入力が便利です。話した言葉がそのまま文字になります。私自身は、AIに口述の整理を手伝ってもらっています。さらにAI翻訳を使い、英語版のブログも公開しています。72歳の私にもできたのですから、特別な技術は要りません。これは私の実践例であり、道具は何でも構いません。
入門書を1冊手元に置くと、テーマ選びが楽になります。Amazonで「自分史 書き方」の書籍を探すことができます。
書くことは、次の世代への贈り物
自分史は、自分のためだけのものではありません。孫やひ孫にとって、祖父母の人生の記録は何よりの贈り物です。家族の歴史は、書き残さなければ一代で消えてしまいます。あなたが最初に書き残したい思い出は、何でしょうか。
なお、気分の落ち込みが2週間以上続く場合は、回想法だけで対処せず、かかりつけ医にご相談ください。
参考文献
- Pinquart M, Forstmeier S. Effects of reminiscence interventions on psychosocial outcomes: a meta-analysis. Aging & Mental Health. 2012;16(5):541-558.
- Sone T, Nakaya N, Ohmori K, et al. Sense of life worth living (ikigai) and mortality in Japan: Ohsaki Study. Psychosomatic Medicine. 2008;70(6):709-715.
- Boyle PA, Barnes LL, Buchman AS, Bennett DA. Purpose in life is associated with mortality among community-dwelling older persons. Psychosomatic Medicine. 2009;71(5):574-579.
次回は月曜日、運動・身体活動のテーマでお届けします。