身体拘束にあたる11の行為と例外の3要件

「自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む」

これは厚生労働省「身体拘束ゼロ作戦推進会議」が2001年3月に公表した『身体拘束ゼロへの手引き』が、介護保険指定基準で禁止の対象となる行為として挙げた11項目のひとつです。転落を心配して四方を柵で囲む。善意から出た行為が、制度上は拘束にあたる。この落差が、現場でいちばん見落とされやすいところです。

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禁止されているのは「行動を制限する行為」全般

同手引きが引用する介護保険指定基準の身体拘束禁止規定は、次のとおりです。「サービスの提供にあたっては、当該入所者(利用者)又は他の入所者(利用者)等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者(利用者)の行動を制限する行為を行ってはならない」

ひも等で縛る行為だけが対象ではありません。手引きが例示する11項目は次のとおりです。

  1. 徘徊しないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る
  2. 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る
  3. 自分で降りられないように、ベッドを柵で囲む
  4. チューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る
  5. チューブを抜かないよう、または皮膚をかきむしらないように、ミトン型の手袋等をつける
  6. ずり落ちや立ち上がりを防ぐため、Y字型抑制帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける
  7. 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるいすを使用する
  8. 脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる
  9. 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る
  10. 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる
  11. 自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する

10番目は、いわゆる薬による抑制がはっきり名指しされているということです。一方、言葉で行動を止める、いわゆるスピーチロックは11項目には入っていません。ただし手引きは「身体拘束禁止規定の対象になっていない行為でも、例えば『言葉による拘束』など虐待的な行為があってはならないことは言うまでもない」と述べています。禁止リストに載っていないから問題がない、という読み方はできません。

例外を認める3要件と、その手続き

「緊急やむを得ない場合」に該当するには、切迫性・非代替性・一時性の3つをすべて満たす必要があります。手引きの定義は次のとおりです。

  • 切迫性:利用者本人または他の利用者等の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと
  • 非代替性:身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと
  • 一時性:身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること

手引きは、この判断を担当スタッフ個人や数名で行わず、身体拘束廃止委員会などの組織であらかじめ手続きを定めて行うことを原則としています。さらに、事前に家族の理解を得ていた場合でも、実際に拘束を行う時点で必ず個別に説明すること。そして態様・時間・その際の心身の状況・緊急やむを得なかった理由を記録すること。要件に該当しなくなったら直ちに解除すること。

手引きが警告しているのは、「一時的」として始めた拘束が時間の経過とともに「常時」の拘束に変わっていく流れです。

拘束をやめるための5つの方針

同手引きが掲げる方針は、次の5つです。

  1. トップが決意し、施設や病院が一丸となって取り組む
  2. みんなで議論し、共通の意識を持つ
  3. まず、身体拘束を必要としない状態の実現を目指す
  4. 事故の起きない環境を整備し、柔軟な応援態勢を確保する
  5. 常に代替的な方法を考え、身体拘束する場合は極めて限定的に

3番目を支えるのが、手引きのいう5つの基本的ケアです。起きる、食べる、排せつする、清潔にする、活動する。手引きは、食事時間を長くして自力で食べられる人を増やす、トイレ誘導を行いおむつを減らす、といった具体例を挙げ、現行の人員体制のままで拘束を廃止している施設があると記しています。

「縛らなかった責任」を問われるのか

拘束をやめられない理由として、事故時の法的責任への不安が挙げられます。この点について手引きは、ケアマネジメントの過程で事故防止対策を尽くしていれば「『身体拘束』をしなかったことのみを理由として法的責任を問うことは通常は想定されていない」との考え方を示しています。あわせて、拘束自体が精神的苦痛や身体機能の低下を招いた場合には、拘束をしたことを理由に責任を問われることもあると注意を促しています。

手引きが参考として挙げているのは東京地裁平成8年4月15日判決です。裁判所は病院側に抑制帯を使用すべき法的義務はないと判示する一方、決めていた頻回な訪室を実施していなかった点をとらえて責任を認めました。専門家の合意にもとづく行政資料が紹介する一裁判例であり、個別事案の結論をそのまま一般化できるものではありません。

2024年度に何が変わったか

厚生労働省が2025年12月25日に公表した令和6年度の高齢者虐待調査のプレスリリースは、令和6年度介護報酬改定の内容として、虐待の発生や再発を防止するための措置が講じられていない場合に基本報酬を減算すること、訪問・通所系サービス等に身体的拘束等の原則禁止と記録を義務づけたこと、短期入所・多機能系サービスに適正化措置を義務づけ未実施なら減算することを挙げています。施設だけの話ではなくなりました。

同調査によれば、施設職員等による虐待の発生要因は「職員の虐待や権利擁護、身体拘束に関する知識・意識の不足」が75.9%で最多、次いで「職員の倫理観・理念の欠如」64.3%、「職員のストレス・感情コントロール」62.5%。研修が形式で終わっているなら、いちばん多い要因に手が届いていないことになります。

気づいたときの通報先は市町村です。同じ職場での虐待を見つけた職員には、高齢者虐待防止法第21条第1項により通報義務があります。通報を理由とする解雇その他の不利益な取扱いは第21条第7項で禁止され、通報者を特定させる情報は市町村職員が漏らしてはならないと第23条が定めています。

参考文献

  • 厚生労働省「身体拘束ゼロ作戦推進会議」『身体拘束ゼロへの手引き 高齢者ケアに関わるすべての人に』平成13年3月
  • 厚生労働省『令和6年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果』2025年12月25日公表(プレスリリース)
  • 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成17年法律第124号)第20条、第21条、第23条(e-Gov法令検索)
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参考文献

  1. 太田 差惠子. (2022). 『親の介護でやってはいけない』. 翔泳社. Amazonで見る ›
  2. 太田 差惠子. (2021). 『マンガでやさしくわかる 介護とお金』. 日本能率協会マネジメントセンター. Amazonで見る ›
  3. 和田 秀樹. (2023). 『老後ひとり暮らしを楽しむ65のヒント』. 幻冬舎. Amazonで見る ›
  4. 杉山 孝博. (2020). 『認知症の人を支える 心のケア』. 中央法規出版. Amazonで見る ›

※ 上記書籍リンクには Amazon.co.jp アソシエイトを含みます。書籍はあくまで参考情報であり、医療行為の判断は必ず医師にご相談ください。

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この記事を書いた人

hasejiiのアバター hasejii 110歳健康寿命プロジェクト 運営者|介護福祉士|デイサービス管理者(経験10年)

介護福祉士として、デイサービスの管理者を10年間経験。現場で見てきた「健康に老いるための工夫」と最新の医学・栄養学の知見をかけ合わせ、世界第1位の平均寿命を誇る日本の食事・運動・睡眠・心の習慣を、優しい言葉で紐解いていきます。

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