5.9%。人生会議(アドバンス・ケア・プランニング、ACP)を「よく知っている」と答えた一般国民の割合です。厚生労働省が第99回社会保障審議会医療部会(2023年6月2日)に提出した『令和4年度人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査の結果について(報告)』の数字で、対象は20歳以上3,000人。「知らない」は72.1%でした。
同じ調査で、自分が受けたい医療・ケアについて家族等や医療・介護従事者と「詳しく話し合っている」と答えた一般国民は1.5%、「一応話し合っている」が28.4%、「話し合ったことはない」が68.6%です。
話していない理由の第1位は「話し合うきっかけがなかったから」で62.8%。「話し合いたくないから」は2.1%にとどまります。避けているのではなく、入口がない。この記事は、その入口の話です。
国のガイドラインが定めているのは「結論」ではなく「手順」
厚生労働省『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』(平成30年3月改訂)は、何を選ぶべきかを指示するものではありません。決め方を定めた文書です。
最も重要な原則として掲げられているのは、医師等から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて本人が多専門職種からなる医療・ケアチームと十分に話し合い、本人による意思決定を基本とすること。そのうえで、本人の意思は変化しうるものだから、話し合いを繰り返すことが重要だとしています。
ほかに、次の点が明記されています。
- 医療・ケア行為の開始・不開始、内容の変更、中止等は、医療・ケアチームが医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断する
- 可能な限り疼痛やその他の不快な症状を十分に緩和し、精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療・ケアを行う
- 生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死は、このガイドラインでは対象としない
- 話し合った内容は、その都度、文書にまとめておく
解説編は「家族等」について、法的な親族関係のみを意味せず、親しい友人等を含み、複数人であってもよいと注記しています。単身世帯の増加を想定した書きぶりです。
本人が話せなくなったとき、順番はこう決まっている
ガイドラインは、本人の意思が確認できない場合の手順を3段階で示しています。
- 家族等が本人の意思を推定できる場合は、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとる
- 推定できない場合は、本人にとって何が最善かについて家族等と十分に話し合い、最善の方針をとる。状態や医学的評価の変化に応じてこのプロセスを繰り返す
- 家族等がいない場合、および家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合は、本人にとっての最善の方針をとる
合意に至らないときは、複数の専門家からなる話し合いの場を別途設置し、医療・ケアチーム以外の者を加えて検討と助言を行う必要があると、ガイドラインは定めています。家族の意見が割れたときに、家族だけで抱え込む必要はないという設計です。
希望は「どこで」も「何を」も、一様ではない
先の意識調査は、具体的な場面を示して希望を尋ねています。治る見込みがなく、およそ1年以内に死に至ると考えたとき、最期を迎えたい場所は、一般国民で自宅43.8%、医療機関41.6%、介護施設10.0%でした。
ところが病状の設定を変えると、答えは動きます。認知症が進み、自分の居場所や家族の顔が分からない状態を想定した場合、最期を迎えたい場所は介護施設53.1%、医療機関29.7%、自宅14.7%。同じ人が、状況によって別の答えを出します。
最期の場所を考える際に重要だと思うことは、一般国民では「家族等の負担にならないこと」が71.6%で最多。次いで「体や心の苦痛なく過ごせること」60.2%、「経済的な負担が少ないこと」55.9%でした。
個別の医療についての回答も一律ではありません。同じ病状設定で、胃ろうを「望まない」63.3%、心臓や呼吸が止まった場合の蘇生処置を「望まない」53.8%。一方、口から水を飲めなくなった場合の点滴は「望む」が56.2%、他の病気にかかった場合の抗生剤や点滴は「望む」が57.2%です。「延命治療はしない」の一言では表せない濃淡があります。
書面をつくることと、共有すること
意思決定できなくなったときに備えて希望を記載した書面をあらかじめ作成することについて、一般国民の69.8%が「賛成である」と答えています。ただし、その書面に従って治療方針を決定することを法律に定めてほしいという回答は20.4%にとどまりました。
もうひとつ、見過ごせない数字があります。話し合った経験のある一般国民のうち、その内容を医療・介護従事者と「共有している」と答えたのは15.8%。家族の中で完結してしまい、実際に判断を担う医療者やケアマネジャーには届いていない。ガイドラインが「その都度、文書にまとめておく」と繰り返す理由は、ここにあります。
いつ、何をきっかけに始めるか
話し合うきっかけになる出来事として一般国民が挙げたのは、「ご家族等の病気」54.8%、「自分の病気」47.7%、「ご家族等の介護」40.7%、「ご家族等の死」31.1%。適切な時期については、一般国民の28.4%が「年齢は関係ない」と答えています。
ガイドラインの解説編は、本人が自らの意思を伝えられない状態になった場合に備え、特定の家族等を意思を推定する者として前もって定めておくこと、その人を含めて人生観や価値観、どのような生き方を望むかを日頃から繰り返し話し合っておくことを勧めています。専門家の検討会による合意にもとづく指針です。
栄養や呼吸に関する処置をどうするかは、病状によって意味がまったく変わります。具体的な治療の選択は、かかりつけ医にご相談ください。
参考文献
- 厚生労働省『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』改訂 平成30年3月
- 人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン 解説編』改訂 平成30年3月
- 厚生労働省『令和4年度人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査の結果について(報告)』第99回社会保障審議会医療部会 資料2、令和5年6月2日
参考文献
- 太田 差惠子. (2022). 『親の介護でやってはいけない』. 翔泳社. Amazonで見る ›
- 太田 差惠子. (2021). 『マンガでやさしくわかる 介護とお金』. 日本能率協会マネジメントセンター. Amazonで見る ›
- 和田 秀樹. (2023). 『老後ひとり暮らしを楽しむ65のヒント』. 幻冬舎. Amazonで見る ›
- 杉山 孝博. (2020). 『認知症の人を支える 心のケア』. 中央法規出版. Amazonで見る ›
※ 上記書籍リンクには Amazon.co.jp アソシエイトを含みます。書籍はあくまで参考情報であり、医療行為の判断は必ず医師にご相談ください。
