集団感染が起きた日の初動と記録の残し方

同じ症状の人が、二人続けて出た。この時点で、施設の動き方は日常のケアから切り替わります。誰が判断し、誰に報告し、何を記録するのか。発生してから考えていては間に合いません。

予防の話ではなく、起きた日の話をします。

目次

初動は「数える」ことから始まる

厚生労働省の『高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版』(2019年3月)は、ノロウイルスについて具体的な引き金を示しています。24時間のうちに水様便または嘔吐症状の発症者が2人以上になった場合、看護職員が記録するとともに責任者に口頭で伝え、責任者は施設全体に緊急体制を敷く。以後は発症者数と症状継続者数を、職員全体で共有する。

厚生労働省老健局『介護職員のための感染対策マニュアル 概要版(施設系)第3版』(令和5年12月)の発生時対応フローは、人数と症状を日時・階・ユニット・部屋ごとに整理し、受診状況、診断、治療内容、通常の発生動向との比較、職員の健康状態まで把握するよう求めています。2〜3日前の記録もさかのぼって見ます。

記録が薄い施設ほど、初動が遅れます。

保健所への報告には、数の基準がある

平成17年2月22日付の厚生労働省5局長連名通知「社会福祉施設等における感染症等発生時に係る報告について」は、施設長が報告すべき場合を三つ挙げています。

  1. 同一の感染症もしくは食中毒による、またはそれらによると疑われる死亡者または重篤患者が1週間内に2名以上発生した場合
  2. 同一の感染症もしくは食中毒の患者またはそれらが疑われる者が10名以上、または全利用者の半数以上発生した場合
  3. 1と2に該当しない場合であっても、通常の発生動向を上回る感染症等の発生が疑われ、特に施設長が報告を必要と認めた場合

報告先は市町村等の社会福祉施設等主管部局で、併せて保健所にも報告し、指示を求めます。中身は人数、症状、対応状況。同通知は、報告した施設は原因究明のため診察医等と連携して血液・便・吐物等の検体を確保するよう努めることも定めています。

施設からの報告とは別に、医師による届出があります。前掲2019年マニュアルによれば、結核は2類感染症、腸管出血性大腸菌感染症は3類感染症で、診断した医師が直ちに保健所へ届け出ます。二つは別の経路です。

ゾーニングと、居室が足りないときの現実解

概要版の発生時対応フローは、感染拡大防止に向けた対応として「ゾーニング・コホーティングの実施」を明記しています。とはいえ、多くの施設で個室は足りません。

2019年マニュアルはそこを踏まえています。可能な限り個室に移すのが原則。個室がない場合は同じ症状の人を一つの部屋に集める。居室隔離が難しい場合はベッド間をカーテンで仕切る。接触感染のおそれがあるときは専用のトイレを設けます(概要版)。感染症の疑いがあり入浴介助が必要な方は、原則として清拭で対応します。

個人防護具は、外す順が本番

着ける順より外す順のほうが難しい。概要版によれば、手袋は片方の外側を引っ張り上げて脱ぎ、それを握ったまま、残った手袋を内側から持ち上げて裏返しながら外します。エプロンは外側が内側になるようにたたむ。マスクは紐を持ってそっと外し、外側にも内側にも触れない。外し終えたら手指衛生。

嘔吐物の処理手順は具体的です。マスク、使い捨てガウン、使い捨て手袋を着用する。周囲2メートルくらいが汚染していると考える。まず濡れたペーパータオルや布をかぶせて拡散を防ぐ。外側から内側に向けて面を覆うように静かに拭き取る。最後に0.1〜0.5%の次亜塩素酸ナトリウム液で確実に拭き取り、使ったものはビニール袋へ。処理後は液体石けんと流水で入念に手を洗い、窓を開けて換気する(2019年マニュアル)。

ノロウイルスにはアルコールの消毒効果が弱く、擦式アルコール製剤による手指消毒は有効ではないと同マニュアルは明記しています。

家族と面会者に、何をどう伝えるか

概要版は、感染者が発生した場合、速やかに管理者等へ報告して事業所内で情報共有し、家族、主治医、居宅介護支援事業所等に報告することを挙げています。保健所が疫学調査を行う場合は協力し、ケア記録や面会者の情報を提供します。

面会については、2019年マニュアルが「必要最小限にする」としたうえで、面会者にも情報を示して理解を求めるよう求めています。概要版はさらに、感染経路の遮断と、交流が心身の健康に与える影響の両方を踏まえて方法を検討し、対面を制限せざるを得ない場合はオンライン等を検討するよう示しています。

隔離は、説明とセットでなければ成り立ちません。

2019年マニュアルは、痂皮型疥癬について感染力が強いため隔離対応とするとしながら、本人等への説明と同意を得て人権に配慮することを併記しています。薬剤耐性菌の保菌者にも、過剰な対応をせず差別につながらないよう注意を求めています。

いつ「終わった」と判断するか

ノロウイルスでは、症状がおさまってからも最大4週間程度は便に多くのウイルスが見つかることがあると2019年マニュアルは記載したうえで、施設全体としては新しい患者が1週間出なければ終息とみなしてかまわないとし、最終判断は感染対策委員会が行うとしています。職員の感染者には、症状が消失しても一定期間の就業制限を挙げています。

インフルエンザでは、職員が感染した場合の休業期間をあらかじめ施設で決めておくよう同マニュアルが求めており、学校保健安全法の出席停止期間(発症した後5日を経過し、かつ解熱した後2日を経過するまで)が参考として示されています。曝露の可能性が高い方への抗インフルエンザ薬の予防内服は、重症化しやすい方やアウトブレイク等を除くと適応はまれで、医師と相談して慎重に判断する必要があると書かれています。かかりつけ医にご相談ください。

ここまでの手順は、効果量が数値で示された臨床試験にもとづくものではありません。行政の通知と、専門家の合意にもとづく手引きです。承知したうえで、自分の施設の手順書に落とし込んでおく。初動の速さを決めるのは、結局そこです。

参考文献

  • 厚生労働省健康局長ほか5局長連名通知「社会福祉施設等における感染症等発生時に係る報告について」健発第0222002号ほか、平成17年2月22日.
  • 厚生労働省『高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版』2019年3月(平成30年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金・老人保健健康増進等事業分)「5.個別の感染対策」.
  • 厚生労働省老健局『介護職員のための感染対策マニュアル 概要版(施設系)第3版』令和5年12月.
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この記事を書いた人

hasejiiのアバター hasejii 110歳健康寿命プロジェクト 運営者|介護福祉士|デイサービス管理者(経験10年)

介護福祉士として、デイサービスの管理者を10年間経験。現場で見てきた「健康に老いるための工夫」と最新の医学・栄養学の知見をかけ合わせ、世界第1位の平均寿命を誇る日本の食事・運動・睡眠・心の習慣を、優しい言葉で紐解いていきます。

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