排泄ケアと尊厳 つなぎ服の前にできること

おむつを外してしまう人に、つなぎ服を着せる。これは介護でしょうか、それとも拘束でしょうか。

答えは制度の側にすでに書かれています。厚生労働省「身体拘束ゼロ作戦推進会議」『身体拘束ゼロへの手引き』(平成13年3月)は、介護保険指定基準で禁止の対象となる行為の8番目に「脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる」を挙げています。同じリストの5番目には、皮膚をかきむしらないようにミトン型の手袋等をつけることも入っています。

排泄ケアは、尊厳の問題であると同時に、拘束の問題と地続きにあります。

目次

排せつは「5つの基本的ケア」のひとつ

同手引きは、身体拘束をせずにケアを行うための土台として、5つの基本的ケアを挙げています。起きる、食べる、排せつする、清潔にする、活動する。生活のリズムを整えるこの5項目を、その人に合った形で徹底することが出発点だという整理です。

そのうえで手引きは、排せつについて次のアセスメントを示しています。

  • 自分で排せつできる
  • 声かけ、見守りがあれば排せつできる
  • 尿意、便意はあるが、部分的に介助が必要
  • ほとんど自分で排せつできない

4段階のどこにいるかで、必要な支援はまったく違います。「できない」とひとくくりにした瞬間に、二番目や三番目の人までおむつに移されてしまう。手引きは、身体拘束を廃止した現場の工夫として「トイレ誘導を行いオムツを減らす」を具体例に挙げています。人手を増やしたのではなく、ケアの方法を変えた例として紹介されている点が重要です。

おむつを外す行為には、理由がある

同手引きは、いわゆる問題行動には必ず原因があるとして、想定される原因を6つ挙げています。スタッフの行為や言葉かけが不適当か、またはその意味が分からない場合。自分の意思にそぐわないと感じている場合。不安や孤独を感じている場合。身体的な不快や苦痛を感じている場合。身の危険を感じている場合。何らかの意思表示をしようとしている場合。

おむつを外す行為は、このうち少なくとも4番目と6番目に重なります。濡れている、蒸れている、かゆい、あるいはトイレに行きたいと伝えたい。原因を除去すれば問題行動は解消する方向に向かうというのが、手引きの立場です。つなぎ服は原因ではなく結果に対処する道具にすぎません。

失禁は、高齢期にありふれた状態です

一般社団法人日本創傷・オストミー・失禁管理学会は、公開資料「IAD(失禁関連皮膚炎)の予防と管理方法」のなかで、高齢者の失禁頻度は極めて高く、尿失禁は60歳以上の高齢者の50%以上、便失禁は65歳以上の男性の8.7%、女性の6.6%と報告されている、と記しています。観察研究にもとづく報告値です。

2人に1人という水準は、失禁が例外的な事態ではないことを示します。恥ずかしさは本人の中に残りますが、それは珍しい出来事だからではありません。介助する側が「よくあることです」と言い切れるかどうかで、本人の受け止め方は変わります。

皮膚を守ることは、痛みを防ぐこと

IAD(Incontinence-Associated Dermatitis、失禁関連皮膚炎)は、尿または便、あるいはその両方が皮膚に接触することで生じる皮膚炎です。同学会は、IADの主症状には疼痛があり苦痛は甚大であること、排泄物が皮膚に接触する状況は不快であり、排泄の援助を受けることは対象者の自尊心にも影響することからQOL低下の一因となる、と説明しています。有病率は1施設の調査で17.01%と報告されています。

同学会は、臨床でIADを評価するための重症度評価スケールIAD-setを開発し、これに基づく管理法を『IAD-setに基づくIADの予防と管理 IADベストプラクティス』(2019年)としてまとめています。専門職団体の合意にもとづく実践指針です。

皮膚に赤みやただれが出ているときは、市販の軟膏で様子を見るより先に、看護師やかかりつけ医にご相談ください。

おむつ代は医療費控除の対象になりうる

費用の話も、尊厳を支える現実的な条件です。

国税庁は「おむつに係る費用の医療費控除の取扱いについて」(平成14年7月1日付通達)を定めており、医師が発行する「おむつ使用証明書」を確定申告時に提出することで、おむつ代を医療費控除の対象にできます。同庁が令和6年10月10日付で行った改正では、要介護認定の審査に伴い作成された主治医意見書等を、一定の要件のもとで「おむつ使用証明書」に代えて取り扱えることが示されました。

要件は年数や意見書の有効期間によって異なります。詳しくは国税庁の情報ページ(令和6年10月18日、個人課税課)と、お住まいの市区町村の窓口でご確認ください。

尊厳は、手順のなかにある

排泄ケアで守られるべきものは、抽象的な理念ではありません。どの段階のアセスメントをしたか。トイレ誘導を試みたか。つなぎ服やミトンに手を伸ばす前に、代わりの方法を検討したか。皮膚の状態を毎日見ているか。そして、費用の負担を軽くする制度を使っているか。

ひとつずつが、記録に残せる具体的な行為です。

参考文献

  • 厚生労働省「身体拘束ゼロ作戦推進会議」『身体拘束ゼロへの手引き 高齢者ケアに関わるすべての人に』平成13年3月
  • 一般社団法人日本創傷・オストミー・失禁管理学会「IAD(失禁関連皮膚炎)の予防と管理方法」2019年2月1日掲載
  • 一般社団法人日本創傷・オストミー・失禁管理学会編『IAD-setに基づくIADの予防と管理 IADベストプラクティス』照林社、2019年
  • 国税庁「おむつに係る費用の医療費控除の取扱いについて(情報)」個人課税課、令和6年10月18日
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参考文献

  1. 太田 差惠子. (2022). 『親の介護でやってはいけない』. 翔泳社. Amazonで見る ›
  2. 太田 差惠子. (2021). 『マンガでやさしくわかる 介護とお金』. 日本能率協会マネジメントセンター. Amazonで見る ›
  3. 和田 秀樹. (2023). 『老後ひとり暮らしを楽しむ65のヒント』. 幻冬舎. Amazonで見る ›
  4. 杉山 孝博. (2020). 『認知症の人を支える 心のケア』. 中央法規出版. Amazonで見る ›

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この記事を書いた人

hasejiiのアバター hasejii 110歳健康寿命プロジェクト 運営者|介護福祉士|デイサービス管理者(経験10年)

介護福祉士として、デイサービスの管理者を10年間経験。現場で見てきた「健康に老いるための工夫」と最新の医学・栄養学の知見をかけ合わせ、世界第1位の平均寿命を誇る日本の食事・運動・睡眠・心の習慣を、優しい言葉で紐解いていきます。

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