食後の歯磨きは肺炎予防の処置です

食事介助の技術は数多く語られますが、肺炎を減らす効果が比較試験ではっきり確かめられているものは、そう多くありません。最も根拠が強いのは、介助の手つきではなく食後の口腔ケアです。

まず規模を確認します。厚生労働省『令和6年(2024) 人口動態統計月報年計(概数)の概況』によれば、誤嚥性肺炎による死亡は年間63,665人。死因順位の第6位です。がん、心疾患、老衰、脳血管疾患に次ぐ位置に、食べることの事故が入っています。

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食後の歯磨きは、清潔の話ではなく肺炎予防の処置

米山らは、日本の介護施設11か所に入所する366人を、口腔ケアを行う群(184人)と行わない群(182人)に無作為に割り付け、2年間追跡しました。介入群では毎食後に5分間の歯磨きと舌のブラッシングを行い、週1回は歯科の専門職による口腔ケアを実施しています。

結果、肺炎の新規発症は非介入群34人に対し、介入群21人。発熱日数と肺炎による死亡も、いずれも有意に減少しました(Yoneyama T, Yoshida M, Ohrui T, et al. J Am Geriatr Soc. 2002;50(3):430-433)。

ランダム化比較試験です。効果の大きさを数字で言い切れる段の根拠が、この分野には確かにあります。

食後の口腔ケアを「余裕があればやること」の位置に置かない。ここが一番効きます。

嚥下の5段階と、加齢で弱るところ

嚥下は先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期の5段階で進みます。食べ物を認識し、噛んで飲み込みやすい塊にし、のどへ送り、気道を閉じて食道へ流し込む。この一連が0.5秒ほどの間に起こります。

加齢の影響が大きいのは咽頭期です。飲み込む瞬間に喉頭が持ち上がって気道にふたをするのですが、この動きが遅れると、ふたが閉じきる前に食べ物が通過してしまいます。むせるのは、まだ反射が残っている証拠でもあります。

むせない誤嚥のほうが危険です。

気づくための簡易評価

現場で使われる簡易評価には、反復唾液嚥下テスト(RSST)、改訂水飲みテスト(MWST)、フードテストがあります。いずれも日本摂食嚥下リハビリテーション学会が示す標準的なスクリーニング手順で、器具をほとんど使わずに実施できます。

ただし、これらはあくまで「疑わしいかどうか」を見分けるためのものです。嚥下機能の診断や訓練方針の決定は医師・歯科医師・言語聴覚士の領域になります。気になる所見があれば、自己判断で食形態を変えず、かかりつけ医にご相談ください。

姿勢を整える

椅子に座る場合は、深く腰かけて足の裏を床につけ、テーブルは肘が90度になる高さに合わせます。足が浮いていると体幹が安定せず、飲み込みの力が入りません。

ベッド上では、上体を30〜60度起こしたうえで、顎を軽く引いた姿勢(頸部前屈位)をとることが推奨されています。顎が上がると気道がまっすぐ開いてしまうためです。この姿勢の指導は臨床の合意にもとづくもので、ランダム化比較試験で効果量が示されているわけではありません。根拠の強さは口腔ケアとは段が違う、ということは押さえておいてください。

食形態ととろみ

嚥下調整食は、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の『嚥下調整食学会分類2021』で、コード0jから4までの段階に整理されています。とろみは薄い、中間、濃いの3段階です。

共通の物差しがあることの意味は、施設と病院と家庭で同じ言葉が通じることにあります。「軟らかめ」では申し送りになりません。コードで伝えれば、退院した翌日からでも同じものが出せます。

なお、とろみは濃ければ安全というものではありません。濃すぎると口腔内に残り、かえって誤嚥や脱水の原因になります。段階の変更は必ず専門職に相談してください。

介助の手順

本人の正面か利き手側に座り、目線の高さを合わせます。介助者が立ったままだと、本人は顎を上げて食べることになります。

スプーンは下から水平に運び、一口量はティースプーン1杯程度。飲み込みを目で確認してから次の一口へ進みます。のど仏が上下する動きを見れば分かります。

急がせないことが技術です。

むせ込み、声が湿ったように変わる、食事中に息が上がる。このいずれかが出たら、その場でいったん止めます。

食後30分は横にしない

食後すぐに臥位にすると、胃の内容物が逆流して気道に入る危険が高まります。座位を30分保つのが基本です。

そして、食後の口腔ケア。冒頭の研究が示したのは、この一手間が肺炎の発症数を実際に減らしたという事実でした。義歯を使っている方は、義歯を外したあとの粘膜と舌の清掃まで含めてください。

参考文献

  • 厚生労働省『令和6年(2024) 人口動態統計月報年計(概数)の概況』2025年.
  • Yoneyama T, Yoshida M, Ohrui T, et al. Oral care reduces pneumonia in older patients in nursing homes. J Am Geriatr Soc. 2002;50(3):430-433.
  • Yoneyama T, Yoshida M, Matsui T, Sasaki H. Oral care and pneumonia. Lancet. 1999;354(9177):515.
  • 日本摂食嚥下リハビリテーション学会『日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021』2021年.
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  2. 太田 差惠子. (2021). 『マンガでやさしくわかる 介護とお金』. 日本能率協会マネジメントセンター. Amazonで見る ›
  3. 和田 秀樹. (2023). 『老後ひとり暮らしを楽しむ65のヒント』. 幻冬舎. Amazonで見る ›
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この記事を書いた人

hasejiiのアバター hasejii 110歳健康寿命プロジェクト 運営者|介護福祉士|デイサービス管理者(経験10年)

介護福祉士として、デイサービスの管理者を10年間経験。現場で見てきた「健康に老いるための工夫」と最新の医学・栄養学の知見をかけ合わせ、世界第1位の平均寿命を誇る日本の食事・運動・睡眠・心の習慣を、優しい言葉で紐解いていきます。

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