掛け声だけでは動きませんでした。だから2024年度の介護報酬改定は、医療機関との連携を「努めましょう」から「定めなければならない」に書き換えました。
厚生労働省老健局老人保健課長が2024年3月に行った改定説明の資料によると、令和6年度介護報酬改定の改定率は+1.59%(介護職員の処遇改善分+0.98%、その他+0.61%)。処遇改善加算の一本化や基準費用額の見直しによる効果を外枠で加えると+2.04%相当になる、と同資料は説明しています。この改定が掲げた基本的な視点は四つあり、その筆頭が「地域包括ケアシステムの深化・推進」でした。
協力医療機関に、三つの条件がついた
同資料によれば、介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護医療院には、次の要件を満たす協力医療機関を定めることが義務づけられました。三年間の経過措置つきです。
- 入所者の病状が急変した場合等において、医師または看護職員が相談対応を行う体制を常時確保していること
- 診療の求めがあった場合において、診療を行う体制を常時確保していること
- 入院を要すると認められた入所者の入院を、原則として受け入れる体制を確保していること(この要件は病院に限る)
加えて、1年に1回以上、急変時等の対応を協力医療機関との間で確認し、その医療機関の名称等を指定を行った自治体に提出しなければなりません。入院した入所者の病状が軽快して退院できるようになったときは、速やかに再入所させられるよう努めることも定められました。特定施設入居者生活介護と認知症対応型共同生活介護については、相談対応と診療の二要件を満たす医療機関を定めるよう努める、という努力義務の扱いです。
連携そのものに、単位という値段がついた
義務化と同時に、報酬の側からも後押しされています。同資料に示された主な新設・見直しは次のとおりです。
- 協力医療機関連携加算(新設)。入所者等の同意を得て病歴等の情報を共有する会議を定期的に開催した場合、三要件を満たす協力医療機関であれば令和6年度は月100単位、令和7年度以降は月50単位
- 高齢者施設等感染対策向上加算(新設)。感染症法の協定締結医療機関等と連携体制を構築し、年1回以上研修に参加して助言・指導を受けると月10単位、3年に1回以上の実地指導を受けると月5単位
- 退所時情報提供加算(新設)。入所者等が医療機関へ退所する際、生活支援上の留意点等の情報を提供すると1回250単位
会議を開くことに値段がつく。この意味は小さくありません。
リハビリの計画書は、44%しか渡っていなかった
連携の穴がどこに空いているかは、数字で出ています。同資料が引用した厚生労働科学研究費補助金(長寿科学政策研究事業、研究代表者・三上幸夫、令和2〜4年度)のアンケート調査では、介護保険のリハビリテーション実施者が、医療保険の疾患別リハビリテーションの実施計画書を入手できていたのは44%でした。同一法人または関連医療機関からの紹介以外のケースでは26.8%。28%の事例では、移行前にどの種類の疾患別リハビリテーションを受けていたのかすら把握されていませんでした。
そして、遅れは結果に出ます。平成27年度介護報酬改定検証調査(平成28年度調査)の集計では、退院後14日未満に訪問リハビリテーションを開始した群のBarthel Indexの改善が5.8点だったのに対し、14日以上かかった群は3.3点でした(p<0.01)。通所リハビリテーションでも、開始が遅いほど改善が小さいという同じ傾向が示されています。
この改定では、訪問リハビリテーションと通所リハビリテーションの事業所に、入院中の医療機関が作成したリハビリテーション実施計画書等を入手して内容を把握することが義務づけられました。退院前カンファレンスに参加して指導を行った場合の退院時共同指導加算600単位も新設されています。書類が届かないなら、取りに行くところまでを制度にした、ということです。
住民から見た入口は、いつもひとつ
制度の話が続きましたが、暮らしている側から見た入口は変わりません。地域包括支援センターです。厚生労働省は、高齢者の総合相談、権利擁護、地域の支援体制づくり、介護予防の必要な援助を行う中核的な機関として市町村が設置していると説明しており、令和7年4月末現在で全国に5,487か所、支所を含めると7,374か所あります。
同省は地域包括ケアシステムを、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される仕組みと定義し、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に構築を進めてきました。そのうえで「保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げていくことが必要です」としています。
全国一律の完成形は、はじめから用意されていません。
制度は場所をつくる。動かすのは人
2024年度は診療報酬と介護報酬の同時改定でした。厚生労働省保険局の説明資料でも、令和6年度診療報酬改定の基本方針の柱として「ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進」が掲げられています。医療と介護の両側から、同じ方向に力がかかった年でした。
ただ、義務も加算も、話し合う場所と理由をつくったにすぎません。会議が設定されても、そこで「昨日から食事量が半分です」と言える人がいなければ、情報は動かないままです。裏を返せば、現場の一言に制度がようやく値段をつけたのが今回の改定でした。
連携は、気持ちではなく仕組みで続きます。
参考文献
- 古元重和(厚生労働省老健局老人保健課長)「令和6年度介護報酬改定について」2024年3月13日、独立行政法人福祉医療機構セミナー資料.(改定率、協力医療機関の要件と義務化、協力医療機関連携加算、高齢者施設等感染対策向上加算、退所時情報提供加算、退院時共同指導加算、リハビリテーション実施計画書の入手義務化、および同資料が引用する厚生労働科学研究費補助金調査と平成27年度介護報酬改定検証調査の数値)
- 厚生労働省「地域包括ケアシステム」(地域包括支援センターの設置状況は令和7年4月末現在).
- 厚生労働省保険局「令和6年度診療報酬改定と賃上げについて」令和6年1月12日.
参考文献
- 太田 差惠子. (2022). 『親の介護でやってはいけない』. 翔泳社. Amazonで見る ›
- 太田 差惠子. (2021). 『マンガでやさしくわかる 介護とお金』. 日本能率協会マネジメントセンター. Amazonで見る ›
- 和田 秀樹. (2023). 『老後ひとり暮らしを楽しむ65のヒント』. 幻冬舎. Amazonで見る ›
- 杉山 孝博. (2020). 『認知症の人を支える 心のケア』. 中央法規出版. Amazonで見る ›
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