訓練室で40分動くことより、残りの23時間をどう過ごすかのほうが、体に効いてきます。
生活リハビリという言葉が指しているのは、要するにこの算数です。
裏づけがあります。健康な高齢者が10日間ベッドで安静に過ごすと、脚の除脂肪量が平均0.95kg、全身では1.5kg減りました。筋肉の中でタンパク質が合成される速度は30%低下しています。平均67歳、日ごろ体を動かしている12人を対象にした数字です(Kortebein P ら. JAMA. 2007;297(16):1772-1774)。同じ研究チームは、平均38歳の人では28日間寝ていても脚の除脂肪量の減少が0.4kg未満だったと比べています。
10日と28日。年齢が違うだけで、失われる速さがこれだけ違います。
ADLとIADLを、分けて見る
ADL(基本的日常生活動作)は食事・更衣・入浴・排泄・移動など、生きるために毎日必ず行う動作。IADL(手段的日常生活動作)は買い物・調理・掃除・洗濯・服薬管理・金銭管理・交通機関の利用など、生活を組み立てるための動作です。
落ちる順番は、たいていIADLが先です。買い物に行かなくなり、料理をやめ、それから歩き方が怪しくなる。ADLだけを見ていると、気づいたときには手遅れになります。支援を考えるときは「この半年でやめてしまったこと」を家族に聞くところから始めるほうが早い。
筋肉の衰えは、器具がなくても見当がつく
サルコペニアの判定にはアジア圏の基準があります。Won によるアジアサルコペニアワーキンググループ(AWGS)2019年基準の解説では、次の値が使われています(Won CW. Korean J Fam Med. 2023;44(2):71-75)。
- ふくらはぎの最大周囲径:男性34cm未満、女性33cm未満(拾い上げの目安)
- 握力:男性28kg未満、女性18kg未満
- 椅子から5回立ち座りする時間:12秒以上
- 6mの歩行速度:毎秒1.0m未満
このうち椅子から5回立つ時間は、自宅の椅子と時計で測れます。ふくらはぎの太さも巻き尺があれば足ります。
当てはまっても診断がつくわけではありません。気になる結果が出たときは、自己判断で運動量を増やす前に、かかりつけ医にご相談ください。
「介助しすぎない」を、具体的な形にする
本人にやってもらうことは、放置とは違います。手を出す量を減らす代わりに、準備と環境を整える手間が増える。そこを引き受けないと、ただの手抜きになります。
- 更衣:袖を通す向きに服を置いておき、動かしやすい側から本人に始めてもらう
- 洗顔:タオルと石けんを手の届く位置に出し、蛇口だけこちらが開ける
- 食事:器の位置を本人の見える範囲に並べ替えてから席につく
- 移動:手すりまでの2歩を歩いてもらい、その先を介助する
- 調理:切る・炒めるが難しくても、盛りつけと味見は任せる
時間はかかります。朝の忙しい時間帯に全部やろうとすれば、まず続きません。1日のうち1つの動作だけを「本人担当」に決めるほうが、結果的に長持ちします。
運動は、種類によって効き方が違う
転倒予防については質の高いメタ解析があります。Sherrington らは116件の無作為化比較試験、2万5,160人分をまとめ、運動全体で転倒の発生率が23%減少したと報告しました(率比0.77、95%信頼区間0.71〜0.83)。種類別では、バランスと生活動作の訓練で24%減、複数の種類を組み合わせた運動で28%減、太極拳で23%減。筋力トレーニング中心のもの、ダンス、ウォーキングのみについては、確実なことは言えないと結論しています。さらに、バランス訓練を含み週の合計が3時間以上になる介入では42%減でした(発生率比0.58、0.45〜0.76)(Sherrington C ら. Int J Behav Nutr Phys Act. 2020;17:144)。
「歩いていれば大丈夫」が通用しないことを示す結果です。片足立ち、つま先立ち、椅子からの立ち座り、その場での方向転換。少しぐらつく動作を、意図して混ぜる必要があります。
転倒歴のある方、膝や腰に痛みがある方は、どこまで負荷を上げてよいかの個人差が大きくなります。始める前にかかりつけ医にご相談ください。
栄養は、量と割合の両方で見る
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、65歳以上のたんぱく質の推奨量は男性60g/日、女性50g/日。総エネルギーに占める目標量は15〜20%で、50〜64歳の14〜20%より下限が引き上げられています。目標とするBMIの範囲も、65歳以上は21.5〜24.9です。
同じ基準には、65歳以上についてフレイル予防を目的とした量を定めることは難しい、という趣旨の注記も置かれています。ここは「まだ決着していない」と正直に読むべきところ。
一方、国際的な専門家グループの指針の多くが、高齢者に体重1kgあたり1日1.2g以上のたんぱく質を勧めている、と前掲のWonの総説は整理しています。これは専門家の合意にもとづく推奨であって、この量にすれば何%改善するという効果量が示されているわけではありません。
薄くなりやすいのは朝食です。ご飯と味噌汁と漬物だけの朝に、卵か納豆か牛乳を1つ足す。それだけで1日の合計はかなり変わります。腎臓病などで食事制限がある方は、必ずかかりつけ医か管理栄養士にご相談ください。
3か月を、一人で抱えない
前掲のWonの総説は、サルコペニアに対しては漸増的な抵抗運動(負荷を少しずつ上げる筋力運動)が第一選択であり、筋機能への効果を見るには介入を最低3か月続ける必要がある、と整理しています。
3か月を家族だけで管理するのは、現実的ではありません。通所介護の個別機能訓練、訪問リハビリテーション、市町村の短期集中型サービス。使える資源は地域包括支援センターとケアマネジャーが把握しています。
生活そのものがリハビリだ、という言い方は美しいのですが、放っておけばそうなるという意味ではありません。手を出す場所を選び、ぐらつく動作を残し、たんぱく質を足す。やることは地味です。
参考文献
- Kortebein P, Ferrando A, Lombeida J, Wolfe R, Evans WJ. Effect of 10 days of bed rest on skeletal muscle in healthy older adults. JAMA. 2007;297(16):1772-1774.(数値は University of Arkansas for Medical Sciences のプレスリリースで確認) https://news.uams.edu/2007/04/25/extended-bed-rest-accelerates-muscle-deterioration-in-older-adults-uams-researchers-report-in-jama/
- Won CW. Management of sarcopenia in primary care settings. Korean J Fam Med. 2023;44(2):71-75. https://www.kjfm.or.kr/journal/view.php?doi=10.4082%2Fkjfm.22.0224
- Sherrington C, Fairhall N, Kwok W, et al. Evidence on physical activity and falls prevention for people aged 65+ years: systematic review to inform the WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour. Int J Behav Nutr Phys Act. 2020;17:144. https://link.springer.com/article/10.1186/s12966-020-01041-3
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(2024年)にもとづく数値表 https://www.kenpakusha.co.jp/data/seigo1/005004-05.pdf
参考文献
- 太田 差惠子. (2022). 『親の介護でやってはいけない』. 翔泳社. Amazonで見る ›
- 太田 差惠子. (2021). 『マンガでやさしくわかる 介護とお金』. 日本能率協会マネジメントセンター. Amazonで見る ›
- 和田 秀樹. (2023). 『老後ひとり暮らしを楽しむ65のヒント』. 幻冬舎. Amazonで見る ›
- 杉山 孝博. (2020). 『認知症の人を支える 心のケア』. 中央法規出版. Amazonで見る ›
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