「生物学的年齢」を測る前に知ること

唾液や少量の血液を送ると、二週間ほどで「あなたの生物学的年齢は〇〇歳です」という数字が返ってくる。そういう検査が、日本のクリニックでも受けられるようになりました。実年齢より若ければ嬉しいし、上回っていれば気落ちする。数字にはそれだけの力があります。

ただ、この検査が何を測っていて、どこまで当てになるのか。そこが説明されないまま、数字だけが一人歩きしています。今日は順に整理します。

目次

測っているのはDNAに付いた目印

生物学的年齢の推定に使われるのは、DNAメチル化という現象です。遺伝子の配列そのものは一生変わりません。しかし配列上の特定の位置(CpGサイト)に、メチル基という小さな目印が付いたり外れたりします。この付き方が、年齢とともに規則的に変化します。

この規則性を最初に大規模に数式化したのが、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のSteve Horvathです。51種類の組織・細胞のデータをもとに、353カ所のCpGサイトの状態から年齢を推定する式を発表しました(Horvath S. Genome Biology. 2013;14(10):R115)。同じ年、Hannumらは血液に特化した式を報告しています(Hannum G et al. Molecular Cell. 2013;49(2):359-367)。

その後、時計は「実年齢を当てる」方向から「健康状態を当てる」方向へ進みました。PhenoAgeは血液検査9項目と死亡リスクを組み込んだ式です(Levine ME et al. Aging (Albany NY). 2018;10(4):573-591)。GrimAgeは喫煙歴や血漿タンパク質を取り込み、死亡までの時間を予測します(Lu AT et al. Aging (Albany NY). 2019;11(2):303-327)。DunedinPACEにいたっては、年齢そのものではなく「1年で何年分老いているか」という速度を測ります(Belsky DW et al. eLife. 2022;11:e73420)。

つまり「生物学的年齢」という一つの数字があるわけではありません。どの時計を使ったかで、意味も精度も違います。結果を受け取ったら、まずそこを確かめてください。

同じ検体を二度測ると

イェール大学のHiggins-Chenらは、代表的な6つの時計について、同じ検体の複製サンプルを測り直したときのばらつきを調べました。技術的なノイズだけで、最大9年の差が出ることがありました(Higgins-Chen AT et al. Nature Aging. 2022;2:644-661)。

9年です。

「実年齢より5歳若い」と喜んだその5歳が、測定誤差の幅にすっぽり収まってしまう。研究チームは主成分分析を使って各時計を作り直し、複製サンプル間の差をおおむね1.5年以内に抑えました。ただし、この改良版がすべての商用検査に採用されているわけではありません。

一回測って一喜一憂するのは、体重計に一度だけ乗って体型を判断するのに似ています。

生活を変えれば数字は動くのか

ここには、強さの違う二種類の証拠があります。

強いほうから。CALERIE試験は、肥満のない成人220人を25%のカロリー制限群と通常食群に割り付けた2年間のランダム化比較試験です。DNAメチル化を解析したところ、制限群では老化速度の指標DunedinPACEが2〜3%低下しました。一方でGrimAgeとPhenoAgeには有意な変化がありませんでした(Waziry R et al. Nature Aging. 2023;3:248-257)。同じ検体から、動く時計と動かない時計が同時に出たわけです。

2〜3%は地味に見えるかもしれません。研究チームはこの幅を、死亡リスクの10〜15%低下に相当する規模だと説明しています。小さな変化が長い時間をかけて効く。老化研究の数字は、たいていこの形をしています。

弱いほうも見ておきます。食事・睡眠・運動・リラクセーションを8週間組み合わせたプログラムで、Horvath時計による推定年齢が対照群より3.23歳低かったという報告があります(Fitzgerald KN et al. Aging (Albany NY). 2021;13(7):9419-9432)。ただしこれは50〜72歳の男性43人を対象としたパイロット試験で、著者自身が、より大規模で長期の試験による確認が必要だと書いています。「8週間で3歳若返る」という見出しだけが先に広まりましたが、そこまで強い証拠ではありません。

測らなくても分かっていること

生物学的年齢の検査は公的医療保険の対象外で、費用は自己負担です。受けるかどうかは自由ですが、その前に確かめておきたい点があります。数字を下げるために勧められる行動は、すでに別の研究で寿命との関係が確かめられているものばかりだ、ということです。

歩数。40歳以上の米国成人4,840人を平均10年追跡した研究では、1日8,000歩の群は4,000歩の群に比べて全死亡リスクが51%低いという結果でした(Saint-Maurice PF et al. JAMA. 2020;323(12):1151-1160)。

生活習慣の束。喫煙しない、適正体重を保つ、1日30分以上の運動、節度ある飲酒、質のよい食事。この5つをすべて満たす人は、一つも満たさない人と比べて50歳時点の平均余命が女性で14年、男性で12年長いと報告されています(Li Y et al. Circulation. 2018;138(4):345-355)。

認知症。修正可能な14の危険因子に対処すれば、世界の認知症の約45%は予防または発症を遅らせられる可能性があると、Lancet委員会が2024年に報告しました(Livingston G et al. The Lancet. 2024;404(10452):572-628)。

いずれも数千人から数万人規模の追跡データです。検査を受けなくても、明日から歩数を増やすことはできます。

私見ですが、検査の値打ちは「若いと出るかどうか」ではなく、生活を変える動機になるかどうかで決まります。動機がすでにあるなら、検査は後回しでかまいません。

それでも受けてみるなら

確かめておくとよい点を挙げます。

  • どの時計(Horvath、PhenoAge、GrimAge、DunedinPACEなど)を使っているか
  • 測定の再現性について説明があるか。主成分分析版のような、ばらつきを抑えた手法か
  • 検体は血液か唾液か。同じ人でも検体が違えば結果は変わります
  • 結果を具体的な行動にどう結びつけるかの説明があるか

そして、検査結果をきっかけにサプリメントや薬を始めよう、運動の強度を上げようと考えたときは、必ずかかりつけ医にご相談ください。生物学的年齢は診断名ではありません。持病をお持ちの方はなおさらです。

数字は道具です。道具に使われないことです。

次は月曜日、食事と栄養の回に戻ります。

参考文献

  • Horvath S. DNA methylation age of human tissues and cell types. Genome Biology. 2013;14(10):R115.
  • Hannum G, Guinney J, Zhao L, et al. Genome-wide methylation profiles reveal quantitative views of human aging rates. Molecular Cell. 2013;49(2):359-367.
  • Levine ME, Lu AT, Quach A, et al. An epigenetic biomarker of aging for lifespan and healthspan. Aging (Albany NY). 2018;10(4):573-591.
  • Lu AT, Quach A, Wilson JG, et al. DNA methylation GrimAge strongly predicts lifespan and healthspan. Aging (Albany NY). 2019;11(2):303-327.
  • Belsky DW, Caspi A, Corcoran DL, et al. DunedinPACE, a DNA methylation biomarker of the pace of aging. eLife. 2022;11:e73420.
  • Higgins-Chen AT, Thrush KL, Wang Y, et al. A computational solution for bolstering reliability of epigenetic clocks: implications for clinical trials and longitudinal tracking. Nature Aging. 2022;2:644-661.
  • Waziry R, Ryan CP, Corcoran DL, et al. Effect of long-term caloric restriction on DNA methylation measures of biological aging in healthy adults from the CALERIE trial. Nature Aging. 2023;3:248-257.
  • Fitzgerald KN, Hodges R, Hanes D, et al. Potential reversal of epigenetic age using a diet and lifestyle intervention: a pilot randomized clinical trial. Aging (Albany NY). 2021;13(7):9419-9432.
  • Saint-Maurice PF, Troiano RP, Bassett DR, et al. Association of daily step count and step intensity with mortality among US adults. JAMA. 2020;323(12):1151-1160.
  • Li Y, Pan A, Wang DD, et al. Impact of healthy lifestyle factors on life expectancies in the US population. Circulation. 2018;138(4):345-355.
  • Livingston G, Huntley J, Liu KY, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. The Lancet. 2024;404(10452):572-628.

本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療の助言ではありません。検査や治療の判断は、かかりつけ医にご相談ください。

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この記事を書いた人

hasejiiのアバター hasejii 110歳健康寿命プロジェクト 運営者|介護福祉士|デイサービス管理者(経験10年)

介護福祉士として、デイサービスの管理者を10年間経験。現場で見てきた「健康に老いるための工夫」と最新の医学・栄養学の知見をかけ合わせ、世界第1位の平均寿命を誇る日本の食事・運動・睡眠・心の習慣を、優しい言葉で紐解いていきます。

「110歳まで自分の足で歩く」を合言葉に、科学的根拠のある情報だけをお届けします。

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