2024年度の介護報酬は、全体でプラス1.59%の改定でした。ところが同じ改定で、訪問介護の基本報酬は下がっています。身体介護(30分以上1時間未満)は396単位から387単位へ、生活援助(20分以上45分未満)は183単位から179単位へ。社会保障審議会介護給付費分科会への諮問書別紙に、改正前と改正後が並べて載っています。
プラス改定なのに、下がったサービスがある。この矛盾を入口にすると、改定が何をしようとしたのかが見えてきます。
1.59%はどこから来た数字か
改定率が決まったのは令和5年12月20日、財務大臣との折衝の場でした。厚生労働省が公開している同日の武見大臣会見概要には、令和6年度介護報酬改定の改定率を全体でプラス1.59%とすること、そのうえで「介護や障害福祉の現場で働く方々にとって令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%のベースアップへ確実につながるよう、配分方法を工夫する」ことが述べられています。
同じ会見で大臣は、処遇改善加算の一本化による賃上げ効果を含めるとおよそ2.04%程度になる、とも説明しています。加えて、今回の改定は処遇改善分について2年分を措置したものであり、3年目の対応は令和8年度の予算編成過程で検討することも述べられています。
つまり1.59%は、賃上げに使い道が指定された財源を厚く含んだ数字です。事業所が自由に使える原資が増えたわけではありません。
下がったサービスと、上がったサービス
同じ諮問書別紙で通所介護を見ると、通常規模型・7時間以上8時間未満・要介護3は896単位から900単位へ引き上げられています。訪問介護が下がり、通所介護が上がった。同じプラス改定のなかで、逆方向に動いたわけです。
基本報酬が下がった分は加算で取り返してください、という設計です。訪問介護の特定事業所加算には、看取り期の利用者への対応実績を評価する要件や、中山間地域等での継続的なサービス提供を評価する新区分(Ⅴ、所定単位数の3%)が設けられました。
ただし、加算は届出と体制整備ができる事業所しか取れません。人手の薄い小規模事業所ほど、基本報酬の減額だけを受け取ることになります。
処遇改善加算が1本になった
これまで介護職員処遇改善加算、介護職員等特定処遇改善加算、介護職員等ベースアップ等支援加算と3本立てだった加算が、令和6年6月から「介護職員等処遇改善加算」に一本化され、4段階になりました。
訪問介護の場合、加算率は(Ⅰ)24.5%、(Ⅱ)22.4%、(Ⅲ)18.2%、(Ⅳ)14.5%です。厚生労働省の資料には、従来3加算の取得状況にもとづく加算率と比べて2.1%ポイント引き上げられていると記されています。令和6年度末までは経過措置区分(Ⅴ)が置かれました。事業所内での柔軟な職種間配分も認められています。
「やらないと減る」仕組みが増えました
2024年度改定の性格をいちばんよく表しているのは、加算ではなく減算のほうかもしれません。
- 業務継続計画未策定減算。感染症または災害のBCPが策定されていない場合、施設・居住系サービスは所定単位数の100分の3、その他のサービスは100分の1を減算します。
- 高齢者虐待防止措置未実施減算。委員会の開催、指針の整備、研修の実施、担当者を定めることが講じられていない場合、100分の1を減算します。
- 短期入所生活介護などでは、身体拘束廃止未実施減算も新設されました。
努力目標だった事柄が、やらなければ報酬が減る領域へ移りました。書類仕事が増えたと感じている現場は多いはずです。ただ、災害時に事業を止めないための計画も、虐待を防ぐための委員会も、利用者の側から見れば当然にあってほしいものではあります。
テクノロジーと人員配置
生産性向上推進体制加算が新設されました。(Ⅰ)が月100単位、(Ⅱ)が月10単位。(Ⅱ)は見守り機器等のテクノロジーを1つ以上導入し、委員会を開催して生産性向上ガイドラインにもとづく改善活動を継続的に行い、1年以内ごとに効果を示すデータを提供することが要件です。(Ⅰ)はさらに、テクノロジーの複数導入と、成果のデータによる確認が求められます。
特定施設入居者生活介護では、人員配置基準の特例的な柔軟化も入りました。要件を満たす場合、看護・介護職員の合計数を「利用者3またはその端数を増すごとに0.9以上」とすることができます。3対1が3対0.9になる、ということです。
ただし、機器を入れれば人を減らしてよいという話ではありません。委員会での安全対策の検討、3か月以上の試行、質の確保と負担軽減がデータで確認されること、そのデータを指定権者へ提出することが条件です。
福祉用具は借りるか買うかを選べます
利用者に直接関わる変更もありました。一部の福祉用具に、貸与と販売の選択制が導入されています。対象は、固定用スロープ、歩行器(歩行車を除く)、単点杖(松葉づえを除く)、多点杖の4種目です。
長く使うものなら買ったほうが安く済み、状態が変わりやすいなら借りたほうがよい。事業者側には、選べることを十分に説明し、医師や専門職の意見と本人の身体状況を踏まえて提案する責任が生じました。
データを出すことが報酬になる
科学的介護情報システム(LIFE)関連の加算では、データ提出の頻度が「3か月に1回」に統一されました。
結果を問う方向も強まりました。ADL維持等加算(Ⅱ)はADL利得2以上から3以上へ基準が上がり、褥瘡マネジメント加算等では治癒そのものが評価対象に加わっています。
結局、何が変わったのか
賃上げの財源を国が握って配り、体制整備をしない事業所からは報酬を削り、データを出すところに上乗せする。2024年度改定を一言でまとめるなら、そういう構造です。
利用者や家族の立場からは、事業所を見る目安がひとつ増えました。処遇改善加算のどの区分を取っているか、BCPを作っているか、虐待防止の委員会を開いているか。重要事項説明書で確認できますし、直接尋ねてもかまいません。減算を受けている事業所は、その分だけ何かができていない事業所です。
参考文献
- 厚生労働省「武見大臣会見概要」令和5年12月20日(財務大臣折衝後)
- 厚生労働省老健局「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」社会保障審議会介護給付費分科会(第239回)資料1、令和6年1月22日
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定 介護報酬の見直し案」社会保障審議会介護給付費分科会(第239回)諮問書別紙、令和6年1月22日
- 厚生労働省老健局「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」
参考文献
- 太田 差惠子. (2022). 『親の介護でやってはいけない』. 翔泳社. Amazonで見る ›
- 太田 差惠子. (2021). 『マンガでやさしくわかる 介護とお金』. 日本能率協会マネジメントセンター. Amazonで見る ›
- 和田 秀樹. (2023). 『老後ひとり暮らしを楽しむ65のヒント』. 幻冬舎. Amazonで見る ›
- 杉山 孝博. (2020). 『認知症の人を支える 心のケア』. 中央法規出版. Amazonで見る ›
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