成年後見が変わる 高齢者の権利を守る仕組み

後見と保佐という制度が、なくなります。

2026年6月24日に公布された「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)により、法定後見の3類型のうち後見と保佐は廃止され、補助の制度に一元化されます。法務省民事局の資料『成年後見制度に関する制度改正の状況について』(令和8年7月)は、施行日を「公布から2年6月を超えない範囲で政令で定める日」と説明しています。

権利擁護という言葉は抽象的に響きます。中身は、具体的な法律と具体的な窓口の集まりです。どこまでが自動的に守られ、どこからは自分で動かないと守られないのか。順に見ていきます。

目次

虐待を止める法律は、誰に何を義務づけているか

高齢者虐待防止法(高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律)は第1条で、目的を「高齢者の権利利益の擁護に資すること」と定めています。第2条第1項では「高齢者」を65歳以上の者と定義し、第6項では、65歳未満でも養介護施設を利用する障害者は高齢者とみなして施設職員による虐待の規定を適用すると定めています。

よく5類型と呼ばれる分類は、第2条第4項・第5項の書きぶりが元になっています。暴行、著しい減食や長時間の放置などの養護を著しく怠ること、著しい暴言や拒絶的な対応、わいせつな行為、そして財産の不当な処分。厚生労働省の調査ではこれを身体的虐待・介護等放棄・心理的虐待・性的虐待・経済的虐待と呼び分けています。

通報の義務は、相手によって強さが違います。家族など養護者による虐待の場合、生命または身体に重大な危険が生じているときは通報しなければならない(第7条第1項)、それ以外は通報するよう努めなければならない(第7条第2項)。一方、養介護施設従事者等が自分の勤め先での虐待を発見した場合は、危険の程度にかかわらず速やかに市町村へ通報しなければなりません(第21条第1項)。

そして第21条第7項は、通報したことを理由に解雇その他不利益な取扱いを受けないと明記しています。第7条第3項と第21条第6項は、守秘義務の規定は通報を妨げるものと解釈してはならないとしています。

数字が示す、いま起きていること

厚生労働省が2025年12月25日に公表した『令和6年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果』によれば、養護者による虐待の相談・通報は41,814件、虐待と判断されたのは17,133件でした。施設職員等による虐待は相談・通報3,633件、虐待判断1,220件で、いずれも過去最多、4年連続の増加です。

注目したいのは通報の経路です。養護者による虐待では、通報者の35.6%が警察でした。介護支援専門員(24.4%)を上回っています。虐待者の続柄は息子38.9%、夫23.0%、娘19.3%。発生要因は、被虐待者側では「認知症の症状」58.1%、虐待者側では「介護疲れ・介護ストレス」57.2%が最多でした。

成年後見制度は何のために使われているか

最高裁判所事務総局家庭局『成年後見関係事件の概況 令和7年1月~12月』によると、2025年12月末時点の利用者は259,901人。申立ての動機は「預貯金等の管理・解約」が93.4%で最も多く、次いで「身上保護」74.2%、「介護保険契約」45.7%です。申立人は本人が24.8%、市区町村長が23.7%。成年後見人等に選ばれたのは親族以外が83.6%でした。

つまりこの制度は、財産をめぐる特定の手続きのために使い始められることが多い。ところが現行法では、いったん後見・保佐が始まると、判断能力が回復しない限りやめられません。今回の改正が「必要な範囲・期間で利用できるようにする」ことを掲げたのは、この点が動機です。

改正で何が変わるのか

  • 後見・保佐を廃止し、本人に必要な事項について代理権・取消権を付与する補助の制度に一元化
  • 判断能力を欠く常況にある人は、法定の重要な財産行為の取消権をまとめて選べる「特定補助の仕組み」を選択可能
  • 能力が回復していなくても、制度利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば利用を終了できる
  • 補助人の選任で家庭裁判所が考慮すべき要素の冒頭に「本人の意見」を規定
  • 補助人に、本人に情報を提供し話を聴くなどの方法で意向を把握する義務を明確化
  • 本人の利益のため特に必要があるときは補助人を解任できる

すでに後見・保佐を利用している方は、基本的には現行法の内容で利用を続けられます。新制度に移りたい場合は補助の申立てをし、後見・保佐開始の審判は取り消されます(附則2条・3条)。ただし解任事由と意向尊重義務は、改正後の民法が適用されます。

後見に届かない人を支える事業

判断能力は不十分だが、本事業の契約内容を判断できる能力はある。そういう方のために、日常生活自立支援事業があります。厚生労働省の説明によれば、実施主体は都道府県・指定都市の社会福祉協議会で、福祉サービスの利用援助、苦情解決制度の利用援助、行政手続の援助、そして預金の払い戻しなど日常的金銭管理を行います。訪問1回あたりの利用料は実施主体が設定し、平均1,200円。生活保護受給世帯は無料です。

契約締結審査会と運営適正化委員会という2つの外部組織が置かれている点も、覚えておく価値があります。

相談先は、市町村の高齢者虐待対応窓口、地域包括支援センター、社会福祉協議会。改正法に付された参議院法務委員会の附帯決議(2026年6月16日)は、市町村で権利擁護支援の中核的役割を担う「中核機関」について、全市町村での設置と十分な相談機能の発揮に努めるよう求めています。お住まいの市町村に中核機関があるかどうか、一度確かめておくとよいと私は考えています。

参考文献

  • 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成17年法律第124号)第1条、第2条、第7条、第20条、第21条、第23条(e-Gov法令検索)
  • 厚生労働省『令和6年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果』2025年12月25日公表(プレスリリース)
  • 法務省民事局『成年後見制度に関する制度改正の状況について』令和8年7月
  • 最高裁判所事務総局家庭局『成年後見関係事件の概況 令和7年1月~12月』2026年3月
  • 厚生労働省「日常生活自立支援事業」(政策紹介ページ)
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参考文献

  1. 太田 差惠子. (2022). 『親の介護でやってはいけない』. 翔泳社. Amazonで見る ›
  2. 太田 差惠子. (2021). 『マンガでやさしくわかる 介護とお金』. 日本能率協会マネジメントセンター. Amazonで見る ›
  3. 和田 秀樹. (2023). 『老後ひとり暮らしを楽しむ65のヒント』. 幻冬舎. Amazonで見る ›
  4. 杉山 孝博. (2020). 『認知症の人を支える 心のケア』. 中央法規出版. Amazonで見る ›

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この記事を書いた人

hasejiiのアバター hasejii 110歳健康寿命プロジェクト 運営者|介護福祉士|デイサービス管理者(経験10年)

介護福祉士として、デイサービスの管理者を10年間経験。現場で見てきた「健康に老いるための工夫」と最新の医学・栄養学の知見をかけ合わせ、世界第1位の平均寿命を誇る日本の食事・運動・睡眠・心の習慣を、優しい言葉で紐解いていきます。

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