食中毒は夏のもの。多くの方がそう思っています。
統計はそうなっていません。
厚生労働省「令和6年食中毒発生状況の概要について」(令和7年11月11日)によれば、令和6年に患者数が最も多かったのは1月の2,912人。次いで2月の2,348人、3月の1,695人でした。上位3か月がすべて冬から早春です。
令和6年の全体像
同じ資料で、令和6年に国内で発生した食中毒は事件数1,037件、患者数14,229人、死者数3人。病因物質別の事件数はアニサキス330件(31.8%)、ノロウイルス276件(26.6%)、カンピロバクター・ジェジュニ/コリ208件(20.1%)の順です。ところが患者数で並べ替えると順位が変わり、ノロウイルス8,656人(60.8%)、ウエルシュ菌1,889人(13.3%)、カンピロバクター1,199人(8.4%)となります。
アニサキスは件数が多くても、一件あたり一人程度。ノロウイルスは一件で何十人も倒します。原因施設別では飲食店が548件で最も多く、次いで家庭の108件、事業場の46件でした。
高齢者では、下痢と嘔吐が別の病気を呼ぶ
厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」(最終改定 令和3年11月19日)は、健康な人は軽症で回復するとしたうえで、子どもや高齢者では重症化したり、吐いたものを誤って気道に詰まらせて死亡することがあると明記しています。同じQ&Aは、吐いたものを誤嚥することによる誤嚥性肺炎にも触れています。
治療についてはこうあります。このウイルスに効果のある抗ウイルス剤はなく、通常は対症療法を行う。体力の弱い乳幼児や高齢者は脱水症状を起こしたり体力を消耗したりしないよう、水分と栄養の補給を充分に行う。脱水症状がひどい場合には病院で輸液を行うなどの治療が必要になる。
そして、市販の下痢止めについて。厚生労働省は「止しゃ薬(いわゆる下痢止め薬)は、病気の回復を遅らせることがあるので使用しないことが望ましい」としています。手元の薬を飲ませたくなる場面ですが、その一手が回復を遅らせます。服用中の薬や持病がある方の対応は、かかりつけ医にご相談ください。
家庭で守る数字は、中心温度と時間
厚生労働省の「大量調理施設衛生管理マニュアル」(平成9年制定、最終改正 平成28年10月6日)は、同一メニューを1回300食以上または1日750食以上提供する調理施設に適用されるものです。家庭に義務があるわけではありません。ただ、そこに書かれた温度と時間の考え方は、台所でもそのまま使えます。
- 加熱調理食品は、中心部が75℃で1分間以上。二枚貝等ノロウイルス汚染のおそれのある食品は85〜90℃で90秒間以上
- 調理後すぐに食べない食品は、10℃以下または65℃以上で管理する
- 加熱後に冷ます場合は、30分以内に中心温度を20℃付近(または60分以内に10℃付近)まで下げる
- 調理後の食品は、調理終了後から2時間以内に食べることが望ましい
- 包丁とまな板は、魚介類用・食肉類用・野菜類用、加熱済み食品用と生食用に分けて使う
冷ます時間を短くする理由は、食中毒菌の発育に適した温度帯がおよそ20℃から50℃だからです。作り置きは、小分けにして早く冷ますところまでが調理です。
手洗いの手順も同マニュアルに具体的に示されています。水で手をぬらして石けんをつけ、指の間と指先をよく洗う(30秒程度)、石けんをよく洗い流す(20秒程度)、使い捨てのペーパータオル等でふく、消毒用のアルコールをかけてすりこむ。タオルの共用はしません。
ノロウイルスは、食材より人から来ることが多い
前掲のQ&Aによると、過去のノロウイルス食中毒では、事例のうち約7割で原因食品が特定できていません。感染した食品取扱者を介して食品が汚染されたケースが多いことが、その要因です。潜伏期間は24〜48時間で、主な症状は吐き気、嘔吐、下痢、腹痛。症状は1〜2日続いた後に治まりますが、下痢等の症状がなくなっても、通常1週間程度、長いときには1か月程度ウイルスの排出が続くことがあります。
治った翌日から台所に立ってよい、とはならないわけです。
消毒についても注意が要ります。一般的な感染症対策で使われる消毒用エタノールや逆性石けんではなく、ノロウイルスを完全に失活化する方法として厚生労働省が挙げているのは、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸水、そして加熱です。調理器具は洗浄後、塩素濃度約200ppmの次亜塩素酸ナトリウムで浸すように拭く。まな板や包丁、ふきんは85℃以上の熱湯で1分以上でも有効です。
吐いたものを片づけるときは、使い捨てのガウン(エプロン)、マスク、手袋を着け、飛び散らないようペーパータオル等で静かに拭き取ってから、約200ppmの次亜塩素酸ナトリウムで床を拭き、その後水拭き。乾くと容易に空中に漂って口から入るため、乾かないうちに処理し、処理後は十分に換気します。
施設の側でやっていること
大量調理施設衛生管理マニュアルは、調理従事者に定期的な健康診断と月1回以上の検便を求めています。検便には腸管出血性大腸菌の検査を含め、必要に応じて10月から3月にはノロウイルスの検査も含める。下痢・嘔吐・発熱の症状があるときや手指に化膿創があるときは調理作業に従事しない。検食は原材料と調理済み食品を50g程度ずつ密封し、マイナス20℃以下で2週間以上保存する。
検食の保存は、事故が起きた後に原因をたどるための仕組みです。予防ではなく、検証のための記録。
受診と届出
感染が疑われた場合の相談先について、厚生労働省は最寄りの保健所またはかかりつけの医師を挙げています。保育園、学校、高齢者の施設等で発生したときは、感染経路を調べて拡大を防ぐため、速やかに最寄りの保健所へ相談するよう求めています。介護保険施設等は、厚生労働大臣が定める手順(平成18年厚生労働省告示第268号)に沿って、必要な場合に市町村および保健所へ報告します。
手洗い、中心温度75℃で1分、冷ますなら30分以内。覚える数字は、これだけで足ります。
参考文献
- 厚生労働省健康・生活衛生局食品監視安全課「令和6年食中毒発生状況の概要について」令和7年11月11日
- 厚生労働省「大量調理施設衛生管理マニュアル」(平成9年3月24日付け衛食第85号別添、最終改正 平成28年10月6日付け生食発1006第1号)
- 厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」(作成 平成16年2月4日、最終改定 令和3年11月19日)
参考文献
- 太田 差惠子. (2022). 『親の介護でやってはいけない』. 翔泳社. Amazonで見る ›
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