歩く速さが毎秒0.1メートル上がるごとに、その後の死亡リスクは12%低い。
米国の9つのコホートを統合したStudenskiらの分析(JAMA 2011)は、65歳以上の地域在住者34,485人を6〜21年追跡しました。歩行速度が毎秒0.1m速いごとの死亡ハザード比は0.88(95%信頼区間0.87〜0.90)。0.1m/秒は時速に直すと0.36kmで、ほんのわずかな差です。
速さで、10年後の見通しは大きく開く
同じ論文は、年齢・性別・歩行速度から10年生存率を予測しています。75歳の場合、歩行速度ごとの予測は男性で19〜87%、女性で35〜91%。同じ年齢でも、歩く速さだけでこれだけ幅が出ます。
心臓、肺、筋肉、関節、脳。歩くという動作にはこれらが同時に関わるため、速度は全身の余力をまとめて映す指標になりうる、というのが研究者の解釈です。
ただし、これは原因の証明ではない
この研究は観察研究のプール解析です。歩く速さと生存の関連は示せても、速く歩けば寿命が延びるとは示していません。
逆因果が最初に疑われます。心不全、肺の病気、関節の痛み、認知機能の低下を抱えた人は、もともと歩くのが遅くなります。遅さは原因というより、体の内側で進んでいることの結果として現れている可能性があります。速度を上げる練習そのものが生存を改善するかは、この論文の範囲外です。
だからこそ使い道は、診断ではなく変化に気づく物差しです。
自宅で測る方法と、目安の1.0m/秒
廊下や歩道で10m(取れなければ5m)を、いつもの速さで歩いて秒数を測ります。10mを10秒で歩ければ毎秒1.0mです。
アジア・サルコペニア作業部会の2019年コンセンサスは、6m歩行で毎秒1.0m未満を身体機能低下の基準の一つに定めています(Chen et al. J Am Med Dir Assoc. 2020)。基準を下回ったら、すぐに病気というわけではありません。握力や下肢の筋力を調べてもらう合図として受け取ってください。
測るときは、転倒を避けるため手すりのある場所を選び、無理に急がないでください。持病のある方、体調に不安のある方、歩く速さを上げる運動を始めたい方は、強度についてかかりつけ医にご相談ください。
私見ですが、月に一度、同じ場所で同じ距離を測って記録しておくと、数字より先に自分の変化が見えてきます。体重や血圧を記録する感覚で、歩く速さも手帳に残す習慣を勧めます。
足腰と歩行の話は、電子書籍『110歳まで歩く』(Kindle)でも扱っています。木曜は、暮らしの側の話題に移ります。
参考文献
- Studenski S, Perera S, Patel K, et al. Gait speed and survival in older adults. JAMA. 2011;305(1):50-58.
- Chen LK, Woo J, Assantachai P, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc. 2020;21(3):300-307.e2.