室温が10℃下がると、朝の血圧は8mmHg高い

血圧は体の数値である前に、部屋の数値でもあるようです。

日本の住宅で血圧と室温を同時に測り続けた「Smart Wellness Housing調査」という研究があります。その成果をまとめた総説(Umishio et al. Hypertension Research. 2023;46(1):9-18)によると、平均57歳の約2,900人から得た約3万3,000件の測定値を解析した横断研究で、室温が10℃低いと、朝の収縮期血圧(上の血圧)は8.2mmHg高くなっていました。夕方の差は6.5mmHgです。

両者の関係は直線ではなく、曲線を描くと報告されています。「1℃下がれば何mmHg」と単純に割り算できる話ではありません。

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断熱改修で、朝の血圧は3.1mmHg下がった

同じ総説は、家の断熱改修を扱った介入研究も紹介しています。改修後、朝の室温は1.5℃上がり、朝の収縮期血圧は3.1mmHg下がりました。自己申告で高血圧のある人では7.7mmHg、ない人では2.2mmHgの低下です。

ここで気をつけたいのは研究の設計です。この介入研究は、参加者が改修するかどうかを自分で選ぶ「非ランダム化」の試験でした。くじ引きで割り付けた試験ではないので、改修を選べる家庭ならではの違いが結果に混じっている可能性を否定できません。

最初の横断研究にも同じ限界があります。ある時点の室温と血圧を比べただけでは、寒い家に住む人たちの年齢や暮らしの条件の違いが、数字に影響していないとは言い切れません。

つまりこの二つから言えるのは、「寒い部屋と高めの血圧は同時に見つかる」ことと、「暖かくすると血圧が下がる方向の結果が出ている」ことまでです。降圧薬の代わりになる数字ではありません。

もう一つ、数字を読むときの前提があります。この総説を書いたのは、調査を担ってきた研究グループ自身です。同じ集団を使った複数の解析をひとまとめにしているため、別の国や別の集団で同じ大きさの差が再現するかどうかは、この文献だけでは判断できません。大きな方向性は示されていても、「8.2」や「3.1」という数字を、自分の家にそのまま当てはめることはできません。

WHOが示す最低ラインは18℃

世界保健機関(WHO)の『Housing and Health Guidelines』(2018年)は、寒い季節に住民の健康を守るため、室内の温度を十分に高く保つよう強く推奨しています。目安として挙げられているのが18℃です。

ただし、これは温暖から寒冷な気候の一般集団向けの安全で均衡のとれた温度という位置づけです。同ガイドラインの解説部分には、高齢者など弱い立場の人では18℃より高い最低室温が必要になりうる、とも書かれています。害が出始める温度の境目は、現在の証拠では特定できないという但し書き付きです。

まず、いる場所の温度を知る

居間は暖かいのに、寝室、脱衣所、トイレ、廊下は外気とほとんど変わらない。日本の家ではよくあることです。

朝の血圧が高いという上の知見を踏まえると、起きてすぐ動く寝室と、そのあと通る廊下やトイレの温度は、一度測っておく価値があります。私見ですが、安価な温度計を置くだけで、暖房の置き場所や使い方を見直す手がかりが得られます。

数字の大小より、温度差のほうが見えにくい問題かもしれません。暖房の効いた居間で測った室温が20℃でも、廊下が10℃台前半なら、体が受ける環境は一日の中で何度も変わります。上の総説が扱ったのも、居住者が実際に過ごす家の温度でした。部屋ごとの平均より、「朝いちばん最初に足を置く場所の温度」を知ることに意味があります。

暖房を足すだけでなく、足元に敷物を置く、窓まわりの隙間を減らす、ドアを開けて暖気を流すといった工夫も、費用をかけずに試せます。効果の大きさは家の造りで大きく変わるため、改修を考える段階では、工務店や自治体の相談窓口で断熱の状況を確認するのがよいでしょう。

血圧を下げる薬を飲んでいる方、血圧が気になる方は、暖房の使い方や室温の目標を含めて、かかりつけ医にご相談ください。

来週は月曜日に、食事の話をお届けします。

日本人の健康長寿の知恵は、拙著『110歳まで歩く』(Kindle版)にまとめています。

参考文献

  • Umishio W, Ikaga T, Kario K, Fujino Y, Suzuki M, Ando S, Hoshi T, Yoshimura T, Yoshino H, Murakami S. Role of housing in blood pressure control: a review of evidence from the Smart Wellness Housing survey in Japan. Hypertension Research. 2023;46(1):9-18. doi:10.1038/s41440-022-01060-6
  • World Health Organization. WHO Housing and Health Guidelines. Geneva: WHO; 2018. Chapter 4: Low indoor temperatures and insulation.
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この記事を書いた人

hasejiiのアバター hasejii 110歳健康寿命プロジェクト 運営者|介護福祉士|デイサービス管理者(経験10年)

介護福祉士として、デイサービスの管理者を10年間経験。現場で見てきた「健康に老いるための工夫」と最新の医学・栄養学の知見をかけ合わせ、世界第1位の平均寿命を誇る日本の食事・運動・睡眠・心の習慣を、優しい言葉で紐解いていきます。

「110歳まで自分の足で歩く」を合言葉に、科学的根拠のある情報だけをお届けします。

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