ボランティアの効果を調べた研究には、ほぼ共通する弱点があります。参加する人が、もともと元気な人だということです。
ボランティアをしている高齢者は長生きする。Okun らのメタ解析(Psychology and Aging. 2013;28(2):564-577)では、ボランティア参加者の全死亡リスクは非参加者より24%低いと報告されています。ただ、これは観察研究が中心の結果です。体が動き、外へ出る気力がある人ほど参加できるので、ボランティアが健康を作ったのか、健康な人がボランティアを選んだのかは、この数字だけでは分かりません。
では、くじ引きで参加者を決めた研究はあるのか。
無作為化した米国の試験
あります。Carlson らが2015年に報告したBaltimore Experience Corps試験(Alzheimer’s & Dementia. 2015、PMID 25835516)です。退職後の高齢者が小学校の図書室などで子どもの学習を支える活動で、平均67.2歳の111人を、参加群58人と対照群53人に無作為に割り付けました。追跡は24か月、MRIで脳の体積を測っています。
対照群の脳は年齢相応に縮みました。一方、参加群の男性では脳の体積がわずかに増え、記憶をつかさどる海馬の大きさも保たれました。女性の参加群も小さな増加を示しましたが、統計的に有意な差ではありません(対照群は24か月で約1%の減少)。脳の体積がより増えた人ほど記憶テストの成績も改善したと、著者らは報告しています。
111人、2年間。結論を急ぐには小さな試験です。
日本のREPRINTS
日本では、高齢者が学校などで子どもに絵本を読み聞かせるREPRINTSという世代間交流プログラムが追跡されてきました。活動はおよそ1〜2週に1回です。
Sakurai らの研究(International Journal of Geriatric Psychiatry. 2017、doi:10.1002/gps.4785)は、MRIを基準時と6年後に撮り、解析に入ったのは参加群17人と対照群42人でした。海馬の体積は対照群で減り、参加群では保たれています。視床と尾状核には差がなく、認知機能のスコアにもプログラムの効果は出ていません。ただし、海馬の減り方が大きい人ほど認知機能の低下も大きいという関係は確認されました。
この研究は無作為化されていません。参加するか対照にとどまるかは、本人が選んでいます。人数も少ない。
10年間の追跡を扱った科研費の成果報告(課題番号26330183、代表者 佐久間尚子)では、言語流暢性課題と物語の即時再生で群間差があったとされています。10年目まで残った割合は、参加群28.2%、対照群46.5%でした。続けた人の結果だけが残っている可能性があり、読むときには割り引く必要があります。
言えることと、言えないこと
米国の無作為化試験でも日本の追跡でも、子どもと関わる活動を続けた群で、海馬の体積が保たれやすかった。方向は一致しています。
一方で、海馬が保たれたことが認知症を減らしたのか、日常の記憶力を守ったのかは、今回の資料では確認できません。REPRINTSでは認知機能スコアに差が出ていません。効果の大きさも、活動の頻度や期間ごとの違いも、まだ分かっていません。
認知症予防の文脈でも、人との接触は軽視されていません。Livingston らの Lancet 委員会報告(The Lancet. 2024;404:572-628)は、修正可能な14の危険因子を挙げ、その全体で認知症の約45%は予防または発症を遅らせられる可能性があるとしています。社会的な孤立はその14因子のひとつです。ただし45%は14因子の合計の推計で、人と会うことだけで得られる数字ではありません。
私見です。研究が示しているのは「ボランティアが脳を守る」という結論ではなく、「週に1〜2回、決まった場所で、自分を待っている人がいる活動」には試す価値があるという程度のことだと思います。歩いて通い、人と話し、役割を果たす。要素が多すぎて、どれが効いたのかを切り分けられないのが、この分野の現状です。
学校での読み聞かせや学習支援は、市区町村の社会福祉協議会や地域の学校に問い合わせると、募集の有無が分かります。体調や持病が気になる方は、始める前にかかりつけ医にご相談ください。
運動と食事、人とのつながりを世界の長寿地域から整理した本が『110歳まで歩く』です。Kindle版はこちら。
参考文献
- Okun MA, et al. Volunteering by older adults and risk of mortality: a meta-analysis. Psychology and Aging. 2013;28(2):564-577.
- Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. The Lancet. 2024;404:572-628.
- Carlson MC, et al. Impact of the Baltimore Experience Corps Trial on cortical and hippocampal volumes. Alzheimer’s & Dementia. 2015. PMID: 25835516.
- Sakurai R, et al. Preventive effects of an intergenerational program on age-related hippocampal atrophy in older adults: The REPRINTS study. International Journal of Geriatric Psychiatry. 2017. doi:10.1002/gps.4785.
- 日本学術振興会 科学研究費助成事業『絵本読み聞かせボランティア活動と高齢者の認知機能に関する10年縦断研究』(課題番号26330183、研究期間2014〜2018年度)