百寿者10万人、病気知らずは少数派

10万7,677人。

厚生労働省が敬老の日を前に公表した、2026年9月1日時点の100歳以上人口です。前年より7,914人増え、統計を取り始めた1963年以来はじめて10万人を超えました。56年連続の増加です。1963年の百寿者は全国で153人でしたから、63年で700倍になった計算になります(厚生労働省 報道発表『百歳高齢者表彰について』2026年9月)。

内訳は女性9万4,298人、男性1万3,379人。女性が87.6%を占めます。国内最高齢は京都市の114歳の女性、男性は熊本市の112歳の方でした。

ここまでは毎年ニュースで流れる数字です。私が今年考えたいのは、その先にある問いです。100歳まで生きた人は、病気をしなかった人なのでしょうか。

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百寿者の3つの型

この問いに正面から答えた研究があります。米国ニューイングランド百寿者研究のEvertらは、97歳から119歳までの424人について、高血圧、心臓病、糖尿病、脳卒中、がん、骨粗鬆症など10の主要疾患の診断歴と発症年齢を調べました(Evert J et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2003;58(3):M232-M237)。

結果は3つの型に分かれました。80歳になる前に何らかの疾患を抱えながら100歳に達した「生存者(Survivors)」、発症を80歳以降まで遅らせた「遅延者(Delayers)」、そして100歳まで主要疾患の診断がなかった「回避者(Escapers)」です。

割合を見ると、病気知らずの回避者は男性で32%、女性で15%にすぎません。逆に、80歳より前から病気を抱えていた生存者は男性24%、女性43%でした。女性の百寿者の4割以上は、70代までに何らかの病気を診断されていた人たちなのです。

ただし、死に直結しやすい心臓病、がん、脳卒中の3つに限ると、男性の87%、女性の83%が発症を80歳以降まで遅らせるか、まったく発症していませんでした。

病気ゼロである必要はない。しかし致命的な病気は遅らせる。それが百寿者の実像です。

110歳に近づくほど、病む期間は短くなる

同じ研究グループは後年、さらに高齢の集団を前向きに追跡しました。100〜104歳884人、105〜109歳430人、110歳以上104人を平均3年追った研究です(Andersen SL et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2012;67(4):395-405)。

年齢群が上がるほど、がん、心血管疾患、認知症、脳卒中の発症は遅くなり、人生全体のうち病気とともに過ごした期間の割合は小さくなっていました。110歳以上の集団では、健康寿命がほぼ寿命に重なる「疾病の圧縮」が観察されています。これは前向きコホートによる知見で、観察研究に共通する限界として、もともと頑健な人ほど超高齢に到達しやすいという選択の影響は残ります。

それでも、このサイトの名前である「110歳」が単なる語呂合わせではない根拠が、ここにあります。長く生きることと長く病むことは、必ずしも同じではありません。

日本の百寿者研究が示した「炎症」

日本にも、世界で最も規模の大きい百寿者研究の一つがあります。慶應義塾大学の新井らは、東京百寿者研究などの3つのコホートを合わせた1,554人(うち百寿者・超百寿者684人、百寿者の子ども167組、85〜99歳の地域高齢者536人)を分析しました(Arai Y et al. EBioMedicine. 2015;2(10):1549-1558)。

百寿者とその子どもは、確かに長いテロメアを保っていました。しかし、100歳以降の健康状態や生存を予測したのはテロメアの長さではなく、血液中の炎症マーカーの低さでした。百寿者の子どもは同年代の比較群より炎症スコアが低く、著者らは炎症を「極端な高齢に至るまで働き続ける、修正可能な老化の駆動因子」と位置づけています。

炎症マーカーの検査を受けるべきかどうかは、健康状態によって意味が変わります。気になる方はかかりつけ医にご相談ください。

遺伝で決まる部分、決まらない部分

百寿者の子どもに共通点が見つかると、結局は遺伝ではないかという反応が返ってきます。ここは分けて考える必要があります。

Christensenらの総説は、寿命の個人差のうち遺伝で説明できる割合を約25%と整理しています(Christensen K et al. The Lancet. 2009;374:1196-1208)。残りの4分の3は遺伝以外です。100歳以上の人が63年で700倍に増えた事実そのものが、遺伝子の変化では説明できません。日本人の遺伝子はこの間ほとんど変わっていないからです。

変わったのは栄養、衛生、医療、そして働き方や暮らし方です。

都道府県で3.6倍の差

今年の公表には、もう一つ気になる数字がありました。人口10万人あたりの百寿者数は、島根県が186.65人で最も多く、埼玉県が51.27人で最も少ない。3.6倍の開きです。上位には高知、鳥取、鹿児島、長野が並び、下位には愛知、大阪、東京、千葉が続きます。

この差を「田舎の暮らしは長寿に良い」と読むのは早計です。若い世代が都市部へ移った地域では分母の人口が減り、百寿者の比率が機械的に上がります。逆に埼玉や千葉は戦後に人口が流入した地域で、100歳に達する世代の層がまだ薄い。この数字を長寿の質の物差しに使うには弱い。ここは私見です。

敬老の日に受け取るべき知らせ

10万人という節目の意味は、100歳が特別な人の話ではなくなったということです。厚生労働省の2023年度データでは、要介護認定者は708万人、認定率は19.4%に達しました(厚生労働省『令和5年度 介護保険事業状況報告(年報)』2025年8月公表)。百寿者が増える社会は、同時に介護を必要とする人が増える社会でもあります。

だからこそ、Evertらの結果は励みになります。百寿者の8割以上が心臓病とがんと脳卒中を80歳以降まで遠ざけていた。病気をゼロにする必要はなく、致命的なものの発症を後ろにずらせばよい。それは今日からの歩数や睡眠や人付き合いで動かせる部分です。

私自身が10万7,677人のうちの一人になれるかどうかは分かりません。ただ、その人たちの多くが「病気知らず」ではなかったと知ったことで、目標の置き方が変わりました。病気を恐れて縮こまるより、致命的なものを遅らせる習慣を淡々と続ける。それで十分だと私は考えています。

次の月曜日は、その「遅らせる習慣」の側に戻ります。


百寿者研究をはじめ、本記事の背景にある科学的根拠は拙著『110歳まで歩く ―日本人が世界に贈る健康長寿の知恵』にまとめています。Kindle版はこちら

参考文献

  • 厚生労働省 報道発表『百歳高齢者表彰について』(2026年9月公表)。100歳以上高齢者数10万7,677人(2026年9月1日時点、住民基本台帳)
  • Evert J, Lawler E, Bogan H, Perls T. Morbidity profiles of centenarians: survivors, delayers, and escapers. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2003;58(3):M232-M237.
  • Andersen SL, Sebastiani P, Dworkis DA, Feldman L, Perls TT. Health span approximates life span among many supercentenarians: compression of morbidity at the approximate limit of life span. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2012;67(4):395-405.
  • Arai Y, Martin-Ruiz CM, Takayama M, et al. Inflammation, but not telomere length, predicts successful ageing at extreme old age: a longitudinal study of semi-supercentenarians. EBioMedicine. 2015;2(10):1549-1558.
  • Christensen K, Doblhammer G, Rau R, Vaupel JW. Ageing populations: the challenges ahead. The Lancet. 2009;374:1196-1208.
  • 厚生労働省『令和5年度 介護保険事業状況報告(年報)』(2025年8月28日公表)
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この記事を書いた人

hasejiiのアバター hasejii 110歳健康寿命プロジェクト 運営者|介護福祉士|デイサービス管理者(経験10年)

介護福祉士として、デイサービスの管理者を10年間経験。現場で見てきた「健康に老いるための工夫」と最新の医学・栄養学の知見をかけ合わせ、世界第1位の平均寿命を誇る日本の食事・運動・睡眠・心の習慣を、優しい言葉で紐解いていきます。

「110歳まで自分の足で歩く」を合言葉に、科学的根拠のある情報だけをお届けします。

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