昼寝は認知機能の低下を半分近く減らす。そう報告した論文があります。昼寝が長い人はアルツハイマー病になりやすい。そう報告した論文もあります。
どちらも嘘ではありません。分かれ目は長さです。
30分で切れる線
新潟県小千谷市に住む65歳以上389人を5年間追った調査があります(Kitamura et al. BMC Geriatrics. 2021;21:474)。昼寝を1〜29分とる人は、昼寝をしない人に比べ、認知機能の低下(改訂長谷川式スケールで3点以上の悪化)が起きる確率が0.47倍でした。年齢、性別、持病、飲酒、喫煙、夜の睡眠時間などを調整した後の数字です。ところが30〜59分の群では差が消え、60分以上の群では低下した人の割合が40.6%と、昼寝なしの28.8%を上回りました。こちらは統計的に有意な差ではありませんが、方向は逆を向いています。
対象が389人と小さく、昼寝の時間も本人の申告です。この一本だけで結論は出せません。
それでも、心臓の研究が同じ場所に線を引いているのは見逃せません。東京大学の山田智英氏らは、昼寝と心血管疾患・死亡の関係を調べた11の前向きコホート研究、計15万1,588人分をまとめました(Yamada et al. Sleep. 2015;38(12):1945-1953)。1日60分以上の昼寝をする人は、しない人に比べて心血管疾患のリスクが1.82倍、全死亡が1.27倍。一方60分未満では、どちらのリスクも上がっていませんでした。リスクの曲線はJの字を描き、0分から30分までは下がり、45分あたりから急に上がります。
脳と心臓。別々の研究者が、別々の病気で、同じ30分前後に線を引いたわけです。
長い昼寝は「原因」か「合図」か
ここで急いで結論を出すと間違えます。昼寝が長いから病気になるのか、病気が始まっているから昼寝が長くなるのか。観察研究では、その区別がつきません。
この問いに正面から取り組んだのが、ハーバード大学とカリフォルニア大学サンフランシスコ校の共同研究です(Li et al. Alzheimer’s & Dementia. 2022; doi:10.1002/alz.12636)。シカゴの高齢者1,401人(平均81歳)に腕時計型の活動量計を毎年最長14日間つけてもらい、昼間の動かない時間を昼寝として記録しました。追跡は最長14年です。
結果は双方向でした。
認知機能が正常なまま過ごした人でも昼寝は年に平均11分ずつ延びていましたが、軽度認知障害と診断されると延び方が年24分に、アルツハイマー病と診断されると年68分に加速しました。逆に、出発点で認知機能が正常だった人のうち、1日1時間を超えて昼寝をしていた人は、1時間未満の人に比べてアルツハイマー病を発症するリスクが40%高いという結果も出ています。
つまり長い昼寝は、病気の結果でもあり、病気に先立つ合図でもある。研究者自身が「昼寝そのものが認知機能の老化を引き起こすと結論づける証拠は十分でない」と述べています。ここは正直に書いておきます。
男性2,751人を12年間追った別の研究では、1日120分以上昼寝をする人は30分未満の人に比べ、認知機能障害を発症する確率が1.66倍でした(Leng et al. Alzheimer’s & Dementia. 2019;15(8):1039-1047)。方向は同じです。
厚労省のガイドも同じ向き
厚生労働省が2024年2月に公表した『健康づくりのための睡眠ガイド2023』は、高齢者について、日中は長時間の昼寝を避けて活動的に過ごすことを勧めています。あわせて、寝床にいる時間が8時間を超えないようにという目安も示しました。眠くないのに横になっている時間が長いほど、健康上のリスクが上がるという判断です。
実際にどうするか
私見を一つ挟みます。昼寝を我慢する必要はないと思います。ただし目覚ましをかける。それだけで「薬」の側に留まれます。
午後の早い時間に、椅子やソファで、20分ほど。ベッドに入ると深い眠りに落ちて30分を超えやすくなります。夜の眠りを削らないためにも、夕方以降は避けたいところです。
気づかないうちに昼寝が延びてきたときは、別の話になります。テレビの前で1時間眠っていることが週に何度もある、夜は寝ているのに昼も眠い。そうした変化の背後には、睡眠時無呼吸、薬の副作用、うつ、認知機能の変化などが隠れていることがあります。自分で判断せず、かかりつけ医にご相談ください。
昼寝の長さは、体重計に乗るのと同じくらい簡単に測れる、脳と心臓の目安です。
拙著『110歳まで歩く』の睡眠の章では、夜の7時間と寝室の温度に加えて、この昼寝の話も扱っています。
『110歳まで歩く ―日本人が世界に贈る健康長寿の知恵』(Kindle版)
参考文献
- Kitamura K, Watanabe Y, Nakamura K, et al. Short daytime napping reduces the risk of cognitive decline in community-dwelling older adults: a 5-year longitudinal study. BMC Geriatrics. 2021;21:474.
- Yamada T, Hara K, Shojima N, Yamauchi T, Kadowaki T. Daytime napping and the risk of cardiovascular disease and all-cause mortality: a prospective study and dose-response meta-analysis. Sleep. 2015;38(12):1945-1953.
- Li P, Gao L, Yu L, et al. Daytime napping and Alzheimer’s dementia: a potential bidirectional relationship. Alzheimer’s & Dementia. 2022. doi:10.1002/alz.12636
- Leng Y, Redline S, Stone KL, Ancoli-Israel S, Yaffe K. Objective napping, cognitive decline, and risk of cognitive impairment in older men. Alzheimer’s & Dementia. 2019;15(8):1039-1047.
- 厚生労働省『健康づくりのための睡眠ガイド2023』(2024年2月公表)