「スマホばかり見ていると認知症になる」。デジタル認知症という呼び名まで生まれ、この不安を口にする方は少なくありません。
では、高齢者のデータはどうなっているのか。
Benge と Scullin が Nature Human Behaviour に発表したメタ解析(2025年)が、現時点で最も大きな整理です。対象は57件の研究、合計411,430人。平均年齢は68.7歳で、追跡期間は1〜18年(平均6.2年)でした。結果は、予想と逆向きです。
数字が示した向き
パソコン、スマートフォン、インターネットなどのデジタル技術を使う人は、認知機能の障害が見られるオッズが0.42(95%信頼区間0.35〜0.52)でした。追跡研究に絞ると、認知機能が低下していく速さのハザード比は0.74(同0.66〜0.84)です。人口統計、社会経済状況、健康状態を調整しても、結果は保たれたと報告されています。
二つの仮説の綱引き
この論文が検証したのは、二つの対立する仮説です。ひとつは、デジタル機器が注意力や記憶を損なうという「デジタル認知症仮説」。もうひとつは、技術を使い続けることが頭の予備能力を蓄えるという「技術的予備能」の考え方です。メタ解析の結果は、後者を支持する向きでした。ただし支持されたのは「関連がある」という水準までで、介入して確かめた無作為化試験の結果ではありません。
これは「使えば防げる」という意味ではない
ここで止まると、誤解が生まれます。
対象はすべて観察研究です。著者ら自身が、因果関係は確定できないと明記しています。しかも逆因果の可能性が残ります。認知機能が保たれている人ほどスマホを使いこなせるのであって、スマホが脳を守っているとは限らない。両方向の説明が成り立ちうる、というのが論文の立場です。
つまりこの研究が否定したのは「デジタル技術が認知症を招く」という単純な図式のほうです。「スマホが認知症を防ぐ」とまでは言えません。
使っている人は、どれくらいいるのか
総務省『令和6年通信利用動向調査』(2025年5月30日公表)によると、インターネットを利用している人は70〜79歳で65.9%、80歳以上で48.1%でした。13〜69歳の各年齢階層は9割を超えています。個人のスマートフォン保有割合は全体で80.5%です。
80歳以上の約半数が、すでにネットの中にいる。一方で、残りの半数は使っていません。
始めるなら、小さな用途から
つながりの面でも、見ておく価値のある数字があります。Holt-Lunstad らの2015年のメタ解析(Perspectives on Psychological Science)では、社会的孤立の死亡リスクは29%、孤独感は26%、独居は32%高いと報告されています。これも観察研究が中心で、健康を損ねた人ほど孤立しやすいという逆の流れが混ざります。それでも、離れて暮らす家族と顔を見て話せる手段が手元にあることは、孤立を和らげる現実的な選択肢のひとつです。
先ほどの研究が検証したのは、特定のアプリの効果ではありません。道具を使うこと全般との関連です。ですから、最初の一歩は何でもかまいません。家族とのビデオ通話、地図アプリでの道案内、写真の整理、天気予報。用途がひとつ決まると、操作は自然に身につきます。
操作を覚えるには負荷がかかります。新しいことを学ぶ過程そのものが、頭を使う機会になる。これは私見です。上の論文は、この仕組みを直接検証したものではありません。
注意点もあります。スマホを長時間見続けて睡眠や歩く時間が削られるなら、本末転倒です。睡眠や運動に不安があるときは、かかりつけ医にご相談ください。
次の木曜は、別の道具の話をします。
参考文献
- Benge JF, Scullin MK. A meta-analysis of technology use and cognitive aging. Nature Human Behaviour. 2025;9(7):1405-1419.
- Holt-Lunstad J, Smith TB, Baker M, Harris T, Stephenson D. Loneliness and social isolation as risk factors for mortality: a meta-analytic review. Perspectives on Psychological Science. 2015;10(2):227-237.
- 総務省『令和6年通信利用動向調査』(2025年5月30日公表)