その28度設定、暖房になっていませんか

リモコンの設定温度は28度。冷房ではなく、暖房になっていました。

東京大学大学院医学系研究科と東京都監察医務院が2025年6月20日に公表した共同研究の中間報告に出てくる、実際の検案記録の一節です。ほかにも、送風モードのままだった、掃除モードから戻っていなかった、送風口にホコリが詰まって風が出ていなかった、2階のエアコンはついていたが本人は1階で倒れていた。どれも、エアコンが「ある」家で起きています。

この研究は、2013年1月から2023年9月までに東京23区で熱中症により亡くなった1,447例を分析したものです。死亡場所は屋内が1,319件、屋外が118件。圧倒的に屋内でした。

目次

エアコンがあっても、届かない

サウナと勤務中の事例を除いた屋内死亡1,295例の内訳は、次のとおりです。

  • エアコンがオフ 581例(44.9%)
  • エアコン未設置 381例(29.4%)
  • エアコンが故障 129例(10.0%)
  • エアコンはオンだった 84例(6.5%)

「オン」だった84例と「故障」129例を合わせた213例、屋内死亡の16.4%が、エアコンを適切に使いこなせなかった結果とみられると研究チームは報告しています。この213例の約80%が一人暮らしか高齢者世帯で、大半が生活支援の受給者、年金・預貯金生活者でした。

家族構成の数字はもっと直接的です。屋内死亡1,295例のうち一人暮らしが860例。60歳以上の一人暮らしだけで全体の60.1%を占めていました。

機械があるかどうかの問題ではなかったのです。その機械を動かせる誰かが近くにいるかどうかの問題でした。

搬送はまだ増えている

消防庁『令和7年(5月〜9月)の熱中症による救急搬送状況』(2025年10月29日、確定値公表)によれば、2025年5月から9月の全国の熱中症搬送人員は100,510人。調査を開始した2008年以降で最多です。そのうち65歳以上が57,433人、全体の57.1%を占めます。

発生場所は住居が38,292人(38.1%)で最も多く、道路の19,773人(19.7%)を大きく上回りました。入院が必要な中等症・重症は合わせて36,616人。搬送された3人に1人を超えます。

外で倒れる話ではありません。

体が警報を鳴らさなくなる

なぜ室内で、しかも高齢者に集中するのか。理由の一つは加齢そのものにあります。

Phillips らが The New England Journal of Medicine に発表した研究では、24時間の水分制限のあと、67〜75歳の男性は20〜31歳の男性に比べ、血漿浸透圧やナトリウム濃度の上昇が大きかったにもかかわらず、のどの渇きを感じにくく、飲んだ水の量も少なかったことが示されました(Phillips PA et al. N Engl J Med. 1984;311(12):753-759)。脱水は進んでいるのに、渇きという信号のほうが弱い。

体温を下げる仕組みも変わります。Kenney と Munce のレビュー論文は、加齢とともに発汗が始まるまでの時間が延び、汗の量が減り、皮膚の血流を増やす反応も鈍くなることを整理しています(Kenney WL, Munce TA. J Appl Physiol. 2003;95(6):2598-2603)。

熱を逃がす仕組みが、二重に弱るということです。

ですから「自分は暑くない」という感覚は、年を重ねたら計器としては当てにしない。温度計と湿度計を信じる。部屋に一つ置くだけで済みます。

暑さは、その夏だけで終わらない可能性

ここからは新しい報告です。

東京科学大学の森田彩子准教授らの研究チームが、日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを使い、同じ自治体に30年以上住み、認知症の既往がない65歳以上57,178人を3年間追跡しました。居住する市町村で「暑い日」(過去30年間の5〜9月の日平均気温のうち上位10%に入る日)が合計30日発生すると、翌年度の認知症発症リスクが約40%増加。認知症と診断される前に暑さの影響で亡くなった可能性まで考慮すると、リスクは最大2.5倍と推計されました(Morita A et al. Alzheimer’s & Dementia. 2026;22(1):e71057)。

この研究では、3年前の暑い日のほうが前年の暑い日より強い影響を持っていたことも確認されています。

ただし観察研究です。暑さが認知症を起こすという因果関係が証明されたわけではありません。それでも、この夏をしのぐことの意味が、この夏を生き延びることだけにとどまらないかもしれない、という報告として受け取る価値はあります。

今日、費用をかけずにできること

東大・監察医務院の研究チームが挙げた対策は、どれも道具も費用もほとんど要りません。

  1. リモコンの電池を替える。フィルターと送風口を掃除する。
  2. 離れて暮らす一人暮らしの親族がいるなら、暑くなる前に一度訪ね、エアコンが実際に冷風を出すか自分の手で確かめる。
  3. 冷房または除湿に設定できているかを一緒に確認し、操作の手順を紙に書いて本体の近くに貼る。
  4. 近所の室外機が動いていない、異音がする。気づいたら声をかける。

環境省は2026年度も、4月22日から10月21日まで熱中症警戒アラートと熱中症特別警戒アラートを運用しています(環境省『令和8年度熱中症特別警戒アラート及び熱中症警戒アラートの運用を開始します』2026年)。特別警戒アラートは、都道府県内のすべての暑さ指数情報提供地点で翌日の日最高暑さ指数(WBGT)が35に達すると予測される場合などに、前日の午後2時頃に発表されます。前日に分かるのですから、その日は予定を動かせます。

なお、利尿薬や降圧薬など、体の水分と電解質の出入りに関わる薬を飲んでいる方は、水分量や塩分の摂り方を自己判断で変えないでください。持病をお持ちの方も含め、かかりつけ医にご相談ください。

私見です。この報告でいちばんこたえたのは、亡くなった方の部屋にエアコンがあった、という一点でした。設備は届いていた。届かなかったのは、それを動かせる誰かの手のほうです。夏のあいだに一度、電話を一本かける。それで防げる死が、統計の中に確かに含まれています。

参考文献

  • 橋本英樹, 林紀乃, 浦邉朱鞠. 熱中症で死なせないために ―エアコンを使いこなせない人を取り残さないように―(研究分析結果 中間報告). 東京大学大学院医学系研究科・東京都監察医務院, 2025年6月20日.
  • 消防庁『令和7年(5月〜9月)の熱中症による救急搬送状況』2025年10月29日公表.
  • Phillips PA, Rolls BJ, Ledingham JGG, et al. Reduced thirst after water deprivation in healthy elderly men. N Engl J Med. 1984;311(12):753-759.
  • Kenney WL, Munce TA. Invited review: aging and human temperature regulation. J Appl Physiol. 2003;95(6):2598-2603.
  • Morita A, Nishimura H, Anzai T, Nawa N, Tani Y, Kondo K, Fujiwara T. Effects of extreme heat on the onset of dementia and all-cause mortality: A 3-year follow-up study in a large population-based cohort in Japan. Alzheimer’s & Dementia. 2026;22(1):e71057. doi:10.1002/alz.71057
  • 環境省『令和8年度熱中症特別警戒アラート及び熱中症警戒アラートの運用を開始します』2026年.
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この記事を書いた人

hasejiiのアバター hasejii 110歳健康寿命プロジェクト 運営者|介護福祉士|デイサービス管理者(経験10年)

介護福祉士として、デイサービスの管理者を10年間経験。現場で見てきた「健康に老いるための工夫」と最新の医学・栄養学の知見をかけ合わせ、世界第1位の平均寿命を誇る日本の食事・運動・睡眠・心の習慣を、優しい言葉で紐解いていきます。

「110歳まで自分の足で歩く」を合言葉に、科学的根拠のある情報だけをお届けします。

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