塩を減らすより、塩を替える

味気ない減塩を、何年も続けられる人は多くありません。

医師から塩分を控えるよう言われ、だしを効かせ、酢やレモンで味に輪郭をつける。それでも半年たてば、元の味付けに戻っている。意志の問題というより、舌が慣れた味を取り戻したがる問題です。この見立ては私見です。

では、塩を減らさずに済む方法はないのか。ひとつ、大規模な無作為化比較試験で検証された答えがあります。

目次

目標との距離

厚生労働省『令和5年 国民健康・栄養調査』によると、日本人の食塩摂取量の平均は1日9.8gです。『日本人の食事摂取基準(2025年版)』が掲げる目標量は、成人男性で7.5g未満、成人女性で6.5g未満。高血圧で治療中の方は6.0g未満が目安です。WHOは成人に対し、1日5g未満(ナトリウムで2g未満)を推奨しています(WHO. Guideline: Sodium intake for adults and children. 2012)。

平均値は、目標を2〜3g上回ったままです。

塩を替えた試験

Neal らが N Engl J Med に発表した SSaSS(Salt Substitute and Stroke Study)は、中国の農村600村を無作為に二群へ分けて比較しています。対象は脳卒中の既往があるか、60歳以上で血圧のコントロールが不良な20,995人。平均年齢は65.4歳でした。

片方の群には、食塩(塩化ナトリウム100%)の代わりに、塩化ナトリウム75%・塩化カリウム25%の代用塩を渡す。もう片方は普段の食塩のまま。平均4.74年の追跡で、結果は次のとおりです。

評価項目 代用塩群の相対リスク(95%信頼区間)
脳卒中(主要評価項目) 0.86(0.77〜0.96)
主要心血管イベント 0.87(0.80〜0.94)
全死亡 0.88(0.82〜0.95)

脳卒中が14%、全死亡が12%少ない。高カリウム血症による重篤な有害事象の増加は、統計的には認められませんでした(相対リスク1.04、0.80〜1.37)。

無作為化比較試験で、死亡まで差が出た。食事面の介入としては力のある結果です。ただし、一つの試験の結果です。

そのまま日本に当てはめてよいか

慎重に読むべき点が三つあります。

第一に、この試験が測ったのは「ナトリウムを減らし、カリウムを増やした」効果の合計です。どちらがどれだけ効いたかは分離できません。

第二に、対象は中国の農村で、調理時に加える食塩が塩分の主な入り口でした。醤油や味噌、漬物など調味料や保存食からの摂取が多い日本の食卓で、同じ大きさの効果が出るかは、この試験からは分かりません。ここは私見を含む推測の領域です。

第三に、参加者は脳卒中の既往者か、血圧が高めの高齢者でした。健康な人にも同じ効果があるとは言えません。

カリウム入りの塩を使う前に

カリウムは、腎臓で排泄されます。腎機能が低下している方や、カリウムを体に残しやすい種類の降圧薬(ACE阻害薬、ARB、カリウム保持性利尿薬など)を飲んでいる方は、血中のカリウムが上がりすぎる恐れがあります。SSaSSの結果は、誰にでも当てはまるものではありません。

カリウム入りの減塩調味料に切り替える前には、かかりつけ医または薬剤師にご相談ください。

減塩の方法は、塩を減らすひとつだけではない。続かなかった方が別の入口を知っておくことには、意味があります。木曜日は、暮らしを支える道具の話に移ります。

なお、日本各地の食と長寿の関係は、新刊『110歳まで歩く』(Kindle版)でも扱っています。

参考文献

  • Neal B, Wu Y, Feng X, et al. Effect of Salt Substitution on Cardiovascular Events and Death. N Engl J Med. 2021;385(12):1067-1077. doi:10.1056/NEJMoa2105675
  • 厚生労働省『令和5年 国民健康・栄養調査』。食塩摂取量の平均9.8g/日
  • 厚生労働省『日本人の食事摂取基準(2025年版)』。食塩相当量の目標量:成人男性7.5g/日未満、成人女性6.5g/日未満
  • World Health Organization. Guideline: Sodium intake for adults and children. Geneva: WHO; 2012.
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この記事を書いた人

hasejiiのアバター hasejii 110歳健康寿命プロジェクト 運営者|介護福祉士|デイサービス管理者(経験10年)

介護福祉士として、デイサービスの管理者を10年間経験。現場で見てきた「健康に老いるための工夫」と最新の医学・栄養学の知見をかけ合わせ、世界第1位の平均寿命を誇る日本の食事・運動・睡眠・心の習慣を、優しい言葉で紐解いていきます。

「110歳まで自分の足で歩く」を合言葉に、科学的根拠のある情報だけをお届けします。

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