毎月一度、同じ顔ぶれで会うという備え

老後の備えは、通帳の残高だけでは測れません。

貯蓄、年金、保険。老後の準備という言葉で思い浮かぶのは、たいていお金の話です。ところが沖縄には、お金の集まりのかたちをしていながら、実際には人のつながりを積み立てている仕組みがあります。模合(もあい)です。本書『110歳まで歩く』でも取り上げた、日本の知恵のひとつをご紹介します。

目次

模合とは何か

模合は、気の合う仲間が毎月一度集まり、決まった額を出し合って、順番に一人がまとめて受け取る仕組みです。もともとは銀行が身近でなかった時代の相互扶助、いわば仲間内の無利子ローンでした。今の沖縄では金銭のやり取りよりも、月に一度必ず顔を合わせる口実として続いている集まりが多いと、沖縄県の情報サイト「OKINAWA41」(2026年2月)は紹介しています。

仕組みそのものは単純です。大事なのは「毎月」「同じ顔ぶれ」「欠席しにくい」という三つの性質が揃っている点です。友人と会うことは誰でもできます。しかし何十年も、月に一度、欠かさず会い続けるのは、意志の力だけでは難しい。模合はそれを仕組みで支えます。

つながりの数が、要介護になる確率を変える

ここからは研究の話です。

愛知県の高齢者約1万3千人を4年間追った日本老年学的評価研究(JAGES)の前向きコホートでは、参加している組織の種類が多いほど、要介護認定を受けるリスクが下がっていました。どの組織にも参加していない人と比べて、1種類で17%減、2種類で28%減、3種類以上で43%減です(Kanamori et al. PLoS ONE. 2014;9(6):e99638)。同じJAGESの別解析では、社会関係の5つの領域すべてを満たす人は、認知症の発症が46%少ないと報告されています(Saito et al. Journal of Epidemiology and Community Health. 2018;72(1):7-12)。

海外の知見も方向は同じです。約34万人を対象とした70研究のメタ解析では、社会的孤立のある人は死亡リスクが29%、孤独感のある人は26%高いという結果でした(Holt-Lunstad et al. Perspectives on Psychological Science. 2015;10(2):227-237)。

ただし、これらの多くは観察研究です。元気な人ほど集まりに出かけられる、という逆の因果も当然あります。上のJAGESの研究では、追跡開始時点で自立していた人だけを対象にし、年齢や所得、持病などの影響を統計的に取り除いたうえでの数字ですが、それでも「集まりに出れば要介護にならない」と言い切ることはできません。集まりに出ている人が、結果として要介護になりにくい傾向がある。そこまでが、研究が示している範囲です。

一人暮らしは、男性15.0%、女性22.1%

内閣府『令和8年版高齢社会白書』(2026年6月)によれば、65歳以上で一人暮らしの人の割合は、男性15.0%、女性22.1%です。配偶者を亡くす、子どもが離れる、退職で職場の縁が切れる。年を重ねるほど、つながりは放っておけば減る一方です。

だからこそ、減っていく分を補う仕組みを、元気なうちに用意しておく意味があります。

模合の面白いところは、参加の動機が「健康のため」ではないことです。健康のための集まりは、健康に不安がない時期には続きにくい。模合はお金と義理が絡むので、行きたくない月でも足が向きます。この「行かざるを得ない設計」が、結果として何十年分のつながりを積み立てていくのです。

沖縄でなくても、できること

模合という名前でなくてかまいません。沖縄流にお金を出し合う必要もありません。要るのは、月に一度、同じ顔ぶれで、断りにくい約束を持つこと。この三つです。

たとえば、毎月第2土曜の昼食会と決めて、幹事を持ち回りにする。幹事役があると、その月は自分が休めません。会費を先に集めておくのも一つの手です。出したお金がもったいないと思えば、雨でも出かけます。JAGESの研究が示すように、種類の違う集まりを複数持つほうが効果は大きいので、趣味の会と地域の会、元同僚の会というように、顔ぶれの重ならない集まりを二つ三つ持てれば理想です。

老後資金は減ります。使えば減るし、物価が上がれば目減りします。一方で、月に一度会う約束は、続ければ続けるほど価値が増していく資産です。お金の備えと同じくらい真剣に、つながりの備えも積み立てておく。これが私の考える、模合から学べる老後準備です。

本書『110歳まで歩く』では、模合のほかにも、日本人が当たり前に持っている長寿の知恵を、研究の裏付けとともに整理しています。Kindle版はこちらからお読みいただけます。

参考文献

  • Kanamori S, Kai Y, Aida J, et al. Social participation and the prevention of functional disability in older Japanese: the JAGES cohort study. PLoS ONE. 2014;9(6):e99638.
  • Saito T, Murata C, Saito M, Takeda T, Kondo K. Influence of social relationship domains and their combinations on incident dementia: a prospective cohort study. Journal of Epidemiology and Community Health. 2018;72(1):7-12.
  • Holt-Lunstad J, Smith TB, Baker M, Harris T, Stephenson D. Loneliness and social isolation as risk factors for mortality: a meta-analytic review. Perspectives on Psychological Science. 2015;10(2):227-237.
  • 内閣府『令和8年版高齢社会白書』(2026年6月)
  • 沖縄県「OKINAWA41」『沖縄ならではの文化!「模合」ってなに?』(2026年2月)
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この記事を書いた人

hasejiiのアバター hasejii 110歳健康寿命プロジェクト 運営者|介護福祉士|デイサービス管理者(経験10年)

介護福祉士として、デイサービスの管理者を10年間経験。現場で見てきた「健康に老いるための工夫」と最新の医学・栄養学の知見をかけ合わせ、世界第1位の平均寿命を誇る日本の食事・運動・睡眠・心の習慣を、優しい言葉で紐解いていきます。

「110歳まで自分の足で歩く」を合言葉に、科学的根拠のある情報だけをお届けします。

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